研究課題/領域番号 |
22K06324
|
研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
斉藤 修 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (60241262)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | TRPチャネル / 低温適応 |
研究実績の概要 |
本研究では、低温環境を好む有尾両生類が、その生息地選択と適応性を支えるどのような温度感受性を持ち、それらの感受性が如何なる変化を獲得した侵害温度センサーに基づいているのか、TRPV1,TRPA1,TRPM8をクローニングし、その温度応答特性とその機能発現の機構を明らかにする。 アホロートル(Ax)を含む 4種の有尾両生類のTRPV1は、閾値が全て30℃前後で共通して他の動物よりかなり低い。この低い閾値が如何なる分子機構で生じるのかAxTRPV1に注目してキメラ解析・点変異解析を行い、N端アンキリンリピート1(ANK1)内の128Qと154Lがキーである事を突き止めた。即ち、AxTRPV1の128Qと154Lの2アミノ酸をそれぞれラットの相同部位のアミノ酸のRとKに変換すると、AxTRPV1も閾値40℃以上のラット型になること、逆にratTRPV1に逆の変異を入れると閾値が下がりAx型の温度応答性に変化した。更にこのANK1の2点の相同部位は有尾両生類TRPV1に共通であり、この2点をRとKへ置換することで全ての有尾両生類TRPV1はラット型の閾値を示すように変化した。よって、有尾両生類TRPV1がこの2点変異を獲得したことが、この動物群の低温生息地選択に大きく寄与したと考えられた。そこで、なぜ、このANK1の2点だけで大きくTRPV1の閾値が大きく変化するのか、その機構にアプローチした。立体構造予測に基づく構造の安定性変化の算出、アミノ酸変換によるチャネルの活性化閾値シフト、更にN端組換えタンパクの熱安定性変化を調べた結果、TRPV1の発見されたANK1の2点は、N端の構造安定性を強く支配する部位で、この部位のアミノ酸選択で安定性が大きく変わり、安定化すれば閾値が大きく上がり、不安定化すれば閾値が大きく下がるという、高温活性化閾値決定の全く新しい仕組みが発見された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
TRPV1研究において大いに研究が進展し、トップジャーナルNature Communicationsに投稿して最終的にアクセプトされた。論文のリバイス時に要求された多くの実験に時間を費やした為、TRPA1及びTRPM8に関する研究はやや遅れてしまった。
|
今後の研究の推進方策 |
有尾両生類TRPM8の低温応答能消失の分子機構:低温を好む4種の有尾両生類のTRPM8を解析した結果、全ての有尾TRPM8が他の動物のTRPM8が持つ低温応答能を失っていた。TRPM8は、N末側に4個のメラスタチン相同ドメイン(MHR1-4)を持つ。まずヤマトサンショウウオ(Ys)とヒトとの間でTRPM8のキメラを作成し、低温応答能を消失させる責任部位を検討した結果、MHR3が原因であった。そこで、次にTRPV1解析同様にマウスTRPM8の立体構造(Nature Comm 13:3113,2022)を利用してホモロジーモデリングでYsTRPM8の構造を予測し、機能消失責任部位が立体構造上どの部位に当たり、どのような機序で応答消失が起こるのか予想する。そして、予想を実証する為の点変異体等を解析して、YsTRPM8の低温活性化能の消失の分子機構を明らかにする。他の有尾TRPM8についても同様にアプローチする。 有尾両生類TRPA1のCa2+依存的閾値降下の分子機構:4種の有尾両生類のTRPA1を解析した結果、全て他の動物のTRPA1にはみられないCa2+存在下で閾値が6~13℃下がる現象が発見され、有尾両生類の低温適応に強く寄与すると考えられた。更にハコネサンショウウオ(Jcs)TRPA1の点変異解析でCa2+依存的閾値降下の責任部位を探索した結果、チャネルポアの3個の酸性アミノ酸に行きついた。そこで、前述と同様に、ヒトTRPA1の立体構造(Nature 520:511,2015)を利用してJcsTRPA1の構造を予測し、Ca2+依存的閾値降下の責任部位がチャネルポアの立体構造上どの部位に当たり、どのような機序でこの現象が起こるのか予想する。そして、予想を実証する為の点変異体等を機能解析して、その機構を解明する。他の有尾TRPA1についても同様にアプローチする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
値引き等によって安く物品が購入出来た。次年度、より多くの実験を進める為に翌年度分と合算して実験消耗品購入に充てる。
|