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2022 年度 実施状況報告書

誕生直後の遺伝子が有する未成熟状態の転写後制御系の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22K06342
研究機関京都府立大学

研究代表者

佐藤 壮一郎  京都府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (00399809)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワードRNA免疫沈降法 / 転写後調節 / シロイヌナズナ / ゲノム進化 / 遺伝子の獲得
研究実績の概要

真核生物のゲノムには、進化の様々な過程で獲得された遺伝子が含まれている。そのような遺伝子がゲノムに定着し機能を発揮するためには転写能の獲得と転写・翻訳制御系の最適化が必要であり、そのことを支持する実験結果が、近年の酵母や線虫、哺乳動物のスプライシングや翻訳を対象とした比較トランスクリプトーム研究などから報告されている。本研究では、未だこのような知見が不十分な植物について、シロイヌナズナのRNA免疫沈降法や遺伝子獲得のモデル実験系を組み合わせた解析を行うことにより、植物の転写・転写後制御系の進化的成熟過程を解明することを目指している。また、本研究を通じて、遺伝子発現制御系の最適化戦略を学ぶことにより、効率の良い遺伝子組換え・発現系の開発といった医学農学分野への技術的貢献も期待できる。
転写・転写後制御系の効率や状態を知るには、植物細胞内のRNAを、合成中のもの、合成された後に細胞中に滞留しているもの、翻訳中のものなどに分けて解析する必要がある。そこで初年度は、シロイヌナズナの新旧の遺伝子に関する “合成中のRNA” に着目し、シロイヌナズナゲノム中に散在する転写開始点それぞれについて、RNA合成能を網羅的に解析することを目標とした。そして、そのために必要な実験系である、シロイヌナズナRNAポリメラーゼIIタンパク質を対象としたRNA免疫沈降法(RIP法)の確立を試みた。また、実験系の確立と並行して、解析対象となる新旧の遺伝子情報の整備を、次世代シーケンサーを用いたウェット実験と既存のデータベースを利用したドライ解析の両面から行った。現在、RIP実験の各ステップの条件検討を行うとともに、シロイヌナズナ野生系統の精密な比較ゲノム解析による新旧遺伝子リストの作成を進めている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究で行うRNA免疫沈降法 (RIP法) は基本的に、植物の破砕、核酸-タンパク質複合体の分画、RNA結合タンパク質に結合し解析の妨げとなるDNAのDNase Iによる分解処理、ターゲットタンパク質の抗体を用いたRNA-タンパク質複合体の免疫沈降、RNA抽出、次世代型DNAシーケンサーによる解読といった流れで行われる。従って、これらの各ステップに関する検討実験で得られた実験条件は、他の様々なRNA結合タンパク質の解析にも用いることができる。初年度の条件検討はRNA精製までの各ステップについて行われ、どのステップについても概ね適切な条件を得ることができたが、唯一、DNAの分解処理だけは最適な方法・条件が見つからず、当初の予想よりも多くの時間を要した。最終的には、処理条件をある程度絞り込むことができたが、次年度も少し検討を続ける必要がある。
一方、解析対象となる新旧遺伝子の整備も進めた。具体的にはシロイヌナズナCol-0系統とその近縁系統、そして他のアブラナ科植物のゲノムを比較し、Col-0系統の持つ全遺伝子のうち22,766遺伝子を、シロイヌナズナ属の出現以前から存在する遺伝子 (シロイヌナズナ属に共通の遺伝子) とシロイヌナズナ属の種分化とともに獲得された遺伝子 (Col-0およびその近縁系統のみに見られる遺伝子) に分類した。Col-0の近縁系統の中には、ゲノム情報が整備されていないものもあったため、それらについては公共データベースおよび本研究室で実施した次世代シーケンスデータを用いて、染色体ゲノムを再構築した。結果として、901の遺伝子がCol-0に近縁な系統のみに保存されていた。同定された遺伝子間で機能的な共通点は見られないが、転写関連ヒストンの分布が他の遺伝子と異なっており、転写様式に何らかの特徴があることが予想される。

今後の研究の推進方策

本研究を推進するには、1) RIP実験系の確立、2) 新旧遺伝子の分類、3) 獲得直後の遺伝子を模したレポーター遺伝子導入形質転換株の準備 が必要である。RIP実験系の確立については、初年度にある程度進めることができたDNase IによるDNAの分解処理の条件を確定し、次いで免疫沈降の条件が確定出来次第、本格的な解析に着手する。解析では、まず初めにモデルとなるいくつかの新旧遺伝子および上述のレポーター遺伝子について、RNAポリメラーゼII抗体を用いたRIP実験とリアルタイムPCRを行い、それらの遺伝子のRNA合成能を定量する。また、リボソーム-mRNA複合体についてもこれを精製・解析するRiboLace法を実施し、各遺伝子の翻訳効率を決定する。以上の解析から得られた結果を検討し、最終的な次世代シーケンス解析に進むための実験基盤を完成させる。
また、新旧遺伝子の整備については初年度の解析でシロイヌナズナ属に共通の22,766遺伝子と、901のシロイヌナズナ属内で獲得された遺伝子を同定することができたが、この解析をより細かく行い、シロイヌナズナ属の種分化の初期・中期・後期といった各時期の出現遺伝子をリスト化する予定である。これにより、転写後制御系の効率の変化をより高い進化的時間分解能で解析することが可能になる。最後に、レポーター遺伝子導入形質転換株については、申請者の以前の研究で、レポーター遺伝子のゲノム上の位置や転写量が同定されている76系統の植物の他に、新たな形質転換系統を増やすべく作業を進めている。
以上の条件検討およびサンプル・情報の整備を2年目となる今年度中に完遂し、次世代シーケンスを用いた大規模解析に進める予定である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2023 2022

すべて 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)

  • [学会発表] ヒストンH2A.Zの分布パターンのシロイヌナズナ種内における進化的変遷2023

    • 著者名/発表者名
      佐藤壮一郎、向江和輝、森田匠真、鳴川暖乃、川口晃平、畑貴之、小保方潤一
    • 学会等名
      日本植物生理学会
  • [学会発表] シロイヌナズナにおけるDSB周辺でのヒストンH4K16ac・H2A.Zの共局在化2023

    • 著者名/発表者名
      川口晃平、風間明、畑貴之、松尾充啓、小保方潤一、佐藤壮一郎
    • 学会等名
      日本植物生理学会
  • [学会発表] シロイヌナズナにおけるDNA損傷誘導性RNAとクロマチンの動態の関連性について2022

    • 著者名/発表者名
      川口晃平、小保方潤一、佐藤壮一郎
    • 学会等名
      日本分子生物学会
  • [学会発表] Colocalization of histone H4K16ac and H2A.Z during DSB repair in Arabidopsis thaliana.2022

    • 著者名/発表者名
      Kohei Kawaguchi, Junichi Obokata, Soichirou Satoh
    • 学会等名
      Integrative Epigenetics in Plants (CSH Conference)
    • 国際学会

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公開日: 2023-12-25  

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