研究課題/領域番号 |
22K06359
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
鈴木 利一 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20284713)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 無殻繊毛虫 / プランクトン / 多様性 |
研究実績の概要 |
東シナ海と大村湾に定点を定め、長崎大学附属練習船による海洋調査・試料採集を令和4年4月から11月まで毎月1回の頻度で行い(但し、7月はエンジントラブルにより、9月は新型コロナ感染症のクラスター発生のために、行う事が出来なかった)、船上より採水器やバケツを用いて無殻の繊毛虫プランクトンを採集した。この時に、水温や塩分、溶存酸素等の海洋環境についても計測した。採集したサンプルを直ちに酸ブアン液で固定し、研究室に持ち帰った。研究室では、セルロースアセテートフィルターで標本を濾過濃縮し、その後の染色過程で個体がフィルターから脱落しないように、フィルター表面を寒天で薄くコーティングした。 コーティングされたフィルター標本をプロテイン銀溶液に浸し、核や繊毛、また、トライカイトと呼ばれる好銀性タンパク質に銀粒子を付着させ、その銀を現像・定着することによって無殻繊毛虫の細胞内外の構造を染色した。次に、フィルター標本をイソプロピルアルコールで段階的に脱水し、キシレンで透徹してカナダバルサムで封入した。この封入でフィルター標本が透明になり、生物顕微鏡の透過照明での観察を可能とした。 カナダバルサムで封入した永久プレパラートを、油浸対物レンズを取り付けた生物顕微鏡で観察し、細胞内外の構造の観察を開始した。永久プレパラートのいくつかは、封入が厚いために、作動距離が長い対物レンズ(開口数が小さい対物レンズ)でしか観察できないものがあった。そこで、そのようなプレパラートに熱を加え、封入の厚みをより薄くすることで、より高解像度の(開口数がより大きい)対物レンズの使用が出来るようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ予定通りに試料を採集したが、練習船の突発的なエンジントラブルと新型コロナのクラスター発生により、2回ほど乗船調査・採集が出来なかった。この欠損分については、令和5年度についても引き続きサンプル採集を行うことによって補っていく予定である。 また、得られたサンプルの処理においても、ほぼ順調に実施することが出来、大型の繊毛虫個体については1個体ずつ拾い出し、染色処理を進める処理についてもオプションとして準備していた。しかしながら、この手法は極めて高度の技量を必要とし、数回以上試みたが、満足な永久プレパラートを作成するに至らなかった。もし、この手法が成功すれば、永久プレパラートの封入の厚みをより薄くすることが可能であり、作動距離が短い高解像(高開口数)の対物レンズが使用できる可能性がある。令和5年度においては、この手法の技術を磨き、高解像対物レンズの性能をフルに発揮できる永久プレパラートの作成を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、試料の採集と標本(永久プレパラート)の作成、また、標本の観察を中心に行う。前年度に引き続き、大村湾での調査・採集を4月から11月まで毎月一回の頻度で行い、採水器を用いて無殻繊毛虫プランクトンを採集する。なお、この時に水温や塩分、溶存酸素等の海洋環境についても計測し、各種の記載文に出現環境の情報を併記する予定である。採集した海水サンプルを酸ブアン液で直ちに固定し、研究室に持ち帰る。研究室では透過照明(斜光照明)装置が取り付けられた実体顕微鏡を用いて、無殻繊毛虫プランクトンを1個体ずつ拾い出し、接着剤でカバーグラスに接着する。また、セルロールフィルターで濾過濃縮し、寒天でコーティングする手法も行う。これらの標本をプロテイン銀溶液に浸し、核や繊毛等の好銀性タンパク質に銀の微細粒子を付着させ、現像・定着することによって染色する。染色した標本をイソプロピルアルコールで脱水、キシレンで透徹し、カナダバルサムで封入して永久プレパラートを作成する。この永久プレパラートを生物顕微鏡(油浸対物レンズ)で細胞内外の構造を三次元的に観察し、無殻繊毛虫プランクトン形態を把握する。細胞のサイズや形状、繊毛列の数や配置、トライカイト(繊維)の配置、大核の数と形状、小核の数をもとにして、種のランクで分類を進める。 令和6年度は、得られたプレパラート標本の観察と記載、結果の公表を主に行う。この際、標本各個体の三次元イメージ画像を取得するため、光学切片像を連続的に写真撮影するだけではなく、同時に動画として記録する。更に、その写真や動画をウェブ上に公開し、国内外の研究者が各種の形態や細胞内外の構造等を把握できるようにする。これらの結果を取りまとめ、モノグラフの作成や成果の発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度末に、本研究の初年度における成果発表の一つとして、学会会場に出向いて対面で発表・参加するために、旅費の使用を予定していた。しかしながら、その日程と大学での重要な業務予定が重なってしまったため、対面による学会参加を見合わせ、その旅費に相当する額を次年度使用とした。 次年度使用額については、令和5年度に購入・使用する予定の物品費(プラスチックポリ瓶やガラス器具、試薬等)の購入のための補助として使用し、昨今の理科機器類の急激な物価高騰分を補う予定である。
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