研究課題/領域番号 |
22K06368
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
橋本 哲男 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50208451)
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研究分担者 |
奈良 武司 医療創生大学, 薬学部, 教授 (40276473)
久米 慶太郎 筑波大学, 医学医療系, 助教 (70853191)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 嫌気性原虫 / 基質レベルリン酸化 / アシルCoA合成酵素 / 比較生化学 / フォルニカータ |
研究実績の概要 |
リコンビナントAcetyl-CoA synthetase (ACS) について、ATP合成方向の活性を、自由生活種のAduncisulcus paluster, Kipferlia bialataおよび寄生種のGiardia intestinalisの3生物種間で比較解析した。基質であるAcetyl-CoAおよびADPに関し、ADPの濃度を一定にしてAcetyl-CoAの濃度を0.01mM, 0.03mM, 0.05mM, 0.08mM, 0.13mM, 0.20mM, 0.30mM, 0.40mM, 0.50mMと変化させ、反応によって遊離するCoAの濃度を測定したところ、3生物種ともにATP合成活性のあることが明らかになった。Giardiaについては先行研究と同等の活性のあることが再現でき、自由生活2生物種についても、リコンビナントタンパク質の発現に用いた配列が確かにACSをコードしていることを確認できた。Vmax値を用いて3生物種間で活性を比較すると、AduncisulcusやKiperliaに比べてGiardiaのそれが明らかに低く、KM値についてもGiadiaの方が低い値となった。このことから酵素の最大能力という点では自由生活種の酵素方が高く、酵素の基質への親和性という意味では寄生種の方が優れているということが示唆された。寄生虫化によってATP合成量を高く保つ必要性がなくなり、機能的制約が緩んで酵素の最大能力の低下につながったとの可能性が考えられた。 一方、取得したAduncisulcus palusterのゲノム配列データのアセンブルとアノテーションを行ってゲノムの概要を明らかにし、ドラフトゲノムの配列として登録し、Microbiol Resource Announcement誌に短報として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Acetyl-CoA synthetase (ACS) について、3生物種間での比較生化学的解析の結果がほぼ出そろい、自由生活性の2種と寄生性の1種の各酵素の活性を定量的に比較しその特徴を明らかにすることができた。これはおおむね研究計画通りの進捗となっている。プロテオミクス解析に関して、Dysnectesのサンプルの準備が整い、精査を行ったリファレンスデータベースの準備が完了している。また、ゲノム及びトランスクリプトームデータの整備に関して、Aduncisulcusのドラフトゲノムを公的データベースに登録しその成果を短報として公表し、Dysnectes及びTrepomonasに関しても、論文投稿の準備がまもなく完了する見込みでありおおむね順調に進んでいると言える。分子進化学的解析に関して、基質レベルのリン酸化関連酵素(SCS, ACS,AcCoASL) およびそれらの反応経路に関連するもの (ASCT, PFO, Fd, Fe-Hyd, HydE, HydF,HydG, NuoE, NuoF, ME等) について生物界全体からホモログを収集を完了している。このとき、タクソンサンプリングに偏りが生じないよう、ホモログ収集の際のフィルタリング方法を設定した。これらのホモログのいくつかで予備的な分子系統解析を行っており、最終的なタクソン選択を進めている。なお、得られた真核生物のMt/MROタンパク質をNommPredを用いて予測する作業も完了している。このように分子進化学的解析もおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
R5年度は、R4年度にATP活性を調査した3生物種以外のTrichomonas vaginalisおよびAduncisulcus palusterの活性測定データが得られる見込みであるため、これらを加えた比較生化学的解析を行う予定である。細胞生物学的解析に関して、局在が未知であったTrichomonas AcCoASLについて免疫電子顕微鏡法によって局在データが得られる予定であるため、それをもとに細胞内環境を推測する。分子進化学的解析に関して、R4年度はタクソン・サンプリングの偏りを是正する措置を講じ効果が得られたが、しかしながら依然として原核生物のタクソン・サンプリングについて不十分あるいは不適切な点があることが予備的解析のデータから予測された。そのため、R5年度はこれをより改善するためのタクソン・サンプリング手法の改良を行い、それによって得られたデータセットの妥当性の評価を行う予定である。また、バイオインフォマティクス手法によるMt/MROタンパク質を予測する作業に関しても、深層学習を利用した新規Mt/MROタンパク質予測ソフトウェアを用いて、より精確なデータマイニングを行う予定である。 加えて、引き続き随時データの収集や最新の解析手法・ソフトウェアの情報に注意を払い、比較生化学・分子進化学的解析を行うことができる体制を維持していく予定である。このようにして、嫌気性真核生物の進化や嫌気的ATP合成経路の多様性について探っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行によって、共同研究者との実験日程の再調整が生じ実施時期が次年度になったため。また、論文投稿の時期が次年度になったため。次年度使用分は主として実験の物品費用等、および論文投稿料として利用する予定である。
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