研究課題/領域番号 |
22K06371
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 隆文 京都大学, 理学研究科, 准教授 (50723665)
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研究分担者 |
富川 光 広島大学, 人間社会科学研究科(教), 教授 (70452597)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 種多様性 / 地下性種 / 分子系統解析 / 分岐年代推定 / 形態 |
研究実績の概要 |
本研究計画では日本列島に生息する地下性動物の中でも,ナミハグモ類,カザアナヤスデ類,メクラヨコエビ類に特に焦点をあて,(A)種多様性の解明と大陸種との系統関係,分岐年代の推定,(B)感覚,消化器官における適応形質状態探索,そして(C)(A)(B)の成果を統合した,島嶼性地下性動物における進化史の統合的理解を目指している.今年度は(A),(B)について研究を進めた. (A)について,ナミハグモ類を対象として四国において,カザアナヤスデ類を対象として既知産地である東北地方と富士山麓の洞窟地帯において採集調査を実施した.メクラヨコエビ類については,それら採集調査において適宜採集を行った.ナミハグモ類については,これまで複数種として認識されていた洞窟性種をほぼ網羅して採集することが出来,龍河洞における調査に向けた許可を取得した.カザアナヤスデ類については東日本より記載された5名義種の内,3名義種についてトポタイプを採集することが出来た.カザアナヤスデ類邦産種6種を含む分子系統解析により,本グループは2系統群に大別され,かつ邦産種が単系統群とならない可能性が示された.更に近畿地方の非洞窟環境においても当該グループの未同定種を採集することが出来たため,包括的な系統関係の解明に向け研究を進める.メクラヨコエビ類については,特に新規に得られた琉球列島産の標本について分家し系統解析並びに分岐年代推定を行い,当該グループの複数(大陸,日本列島)系統において,2000万年前後に起こった日本海開裂の地史イベントの影響を受け,多様化が生じたことを明らかにした. (B)については,特にカザアナヤスデ類を対象とした走査型電子顕微鏡による口器付属肢の観察によって,大顎の形態が地表性種に比して特殊化している可能性が明らかになった.加えて,当該グループの食性解明に向けた安定同位体解析に関する準備を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種多様性の解明と系統関係,分岐年代推定について,対象としている各グループについて順調に採集調査と,得られた標本に基づく研究を進めることが出来ている.既に幾つかの研究成果については論文として公表済みであり,日本列島に産する地下性動物の進化史解明に向けた基盤情報を着実に解明できていると考えている. 適応形質状態の探索については若干の遅れが認められるが,カザアナヤスデ類を対象とした消化管細菌叢解析,安定同位体解析に向けた準備を進めることが出来,2023年度にデータを得て,研究を進める予定である.したがって,島嶼性地下性動物の多様性と進化史の総合的な理解に向け,ある程度スムーズに研究が進展していると考えられ,「おおむね順調」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
採集調査においては,2022年度に取りこぼした地域において追加の調査を行うと共に,西日本の各地域において採集調査を実施し,当該地域における地下性動物のコレクション構築に努める.その上で,得られたサンプルについて遅滞なく系統分類学的研究を進める.また,韓国での採集調査を2023年度後半に実施し,半島産種と列島産種のより解像度の高い系統関係解明に取り組む. 適応形質状態探索では,特にサンプルが充実しており,様々な地下環境に生息していることが判明したカザアナヤスデ類により焦点を当て,食性に着目して細菌叢解析や安定同位体解析を実施することで,当該グループの適応形質に関する新たな知見を得られるよう研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度後半に追加の採集調査を実施する予定で前倒し請求を行ったが,採集目的の季節性を勘案し,東北地方における調査を実施しなかったため,若干の繰越金が発生した.2023年度では,旅費分として組み込みんで使用する予定である.
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