研究課題/領域番号 |
22K06381
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研究機関 | 神奈川県立生命の星・地球博物館 |
研究代表者 |
折原 貴道 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 主任学芸員 (30614945)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | きのこ / 伊豆諸島 / 系統地理学 / 生物地理 / 黒潮 |
研究実績の概要 |
トリュフ類を始めとする「地下生菌」の子実体は、自力での胞子の風散布能力を欠損しているものが多く、動物による子実体の摂食により胞子を広域散布すると考えられてきた。しかし、著者らの過去の研究課題において、海を越え海洋島へ広域分散している種が複数確認された。著者らによる対象種の観察・分子系統解析の結果、これらの地下生菌は子実体の動物散布に依らない無性胞子(いわゆるカビ世代の胞子)等の風散布能力を有している可能性が強く示唆された。すなわち、地下生菌の中には、風による広域分散能力を有する種とそうでない種の両方が存在すると考えられる。その一方で、分子系統解析の結果、風分散しないと考えられる地下生菌の中にも、伊豆諸島の一部の島嶼へのみ、分布を拡大している種があった。本課題では、このような例外的なケースについて、「伊豆諸島が形成された後期更新世以降に、現在の大陸棚に位置する古長江・古黄河からの大規模な洪水等により流出した土砂や流木中に地下生菌が付随し、それらが黒潮に乗って琉球列島を経由し伊豆諸島の一部へ到達した」との仮説を立て、複数遺伝子領域による分子系統解析や・ゲノムワイドの集団遺伝学的解析によりこれを検証する。 2022年度は伊豆諸島や、隣接する伊豆半島とその周辺域を中心に、国内各地で対象種のサンプリングを実施し、解析の基礎となるDNA配列データの拡充に努めた。その結果、ウスベニタマタケやホシミノタマタケ属の一種など数種の地下生菌について、より高解像度のデータ及び仮説を支持する解析結果が得られた。また、比較解析の対象となる、海峡を越え広域分散すると考えられる地下生菌についても、同様に追加サンプルとデータを得た。本課題における仮説の検証には、伊豆諸島だけでなく、各地で満遍なくサンプリングし、系統地理学的解析の基盤を整えることが重要であり、2022年度はこの点において重要な成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度中の出版が義務となっていた、他の調査プロジェクトの大型出版物の作成が難航し、相対的に本研究に充てるエフォートの確保が困難となったため。その結果、2022年度中に実施する計画であった、次世代シーケンサーによる対象種のゲノムワイドのSNP解析を行う段階まで至らなかった。ただし、島嶼域を含む国内各地での対象種のサンプリングは順調に実施でき、サンプルの確保は当初の計画以上の成果があったことから、2023年度中には、SNP解析にあたって、一定以上の成果が見込めるものと考えている。また、前述の理由により、一部の対象分類群の分類学的記載も完了できなかったため、2023年度中に、本研究の遂行に必要な記載を含む論文を優先して投稿する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、伊豆諸島その他関連地域におけるフォローアップ調査を実施するほか、2022年度に実施できなかった、対象種のゲノムワイドのSNP解析を行い、仮説の裏付けを目指す。サンガー・シーケンシングによる複数DNA領域のシーケンスデータの取得も並行して推進し、最終的な大規模解析に向けてのデータ構築を進める。また、対象種の一部については未記載種であるため、新分類群の記載を含む論文の執筆・投稿を行う。研究を進める過程で得られた成果についての研究発表も、積極的に行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、当初予定していた国際学会への参加と海外調査が中止となったため。今後の計画としては、国際学会での成果発表および海外調査を改めて実施するほか、比較的高額の費用が必要である次世代シーケンサーでのSNP解析の追加実施、および研究協力者の同行を伴う野外調査の旅費に当該の予算を充てる計画である。
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