研究課題/領域番号 |
22K06403
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
坂井 陽一 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (70309946)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | クラカケベラ / オグロトラギス / 寝床 / 産卵行動 / 配偶システム / 潜水観察調査 / サンゴ礁 |
研究実績の概要 |
2022年度においては、ベラ科クラカケベラとトラギス科オグロトラギスの2魚種について野外調査を実施した。 クラカケベラについては研究実施計画に則り日中調査を実施したところ、崎本部海岸の沖合水底に同種の高密度個体群を発見した。寝床作り以外の生態情報が皆無であるクラカケベラの社会生態を捉えることができる絶好の機会であったため、産卵行動の観察を重点的に同調査地点での夕刻調査を集中的に実施した結果、産卵行動の確認に成功した。クラカケベラの産卵行動はこれまでにまったく報告・確認例がなく、貴重な初記録データを獲得することができた。さらに、個体間の配偶関係と行動圏の空間配置関係の調査を進めたところ、雌雄問わず行動圏を重複させる群れ型の空間配置を有することが確認された。隠れ家や餌資源を確保するために各個体がなわばりを維持することの多い底生性魚類においてあまり報告例のない空間配置であり、寝床や餌資源の確保がどのように為されているのか今後注目される。また、繁殖社会については、雌が行動圏を大きく重複させる雄個体と繰り返し産卵する「ハレム型配偶システム」であることを示唆するデータを獲得した。 オグロトラギスについては沖縄県瀬底島をフィールドに調査を実施し、同種が雌雄ともに寝床を維持し、その手入れを頻繁に行うことを発見した。これはトラギス科で初の確認であるだけでなく、ベラ科以外の魚類にも寝床作りがみられることを示す貴重な事例となる。同種はメスが互いになわばり関係にあり、そのなわばりをオスのなわばりが覆うハレム型の空間配置を有するとされてきたが、調査地では独身オスや一夫一妻の空間配置をもつものが少なくない状況であった。また、メスの手入れする寝床をオスが訪問することも観察され、寝床が睡眠のためのみでなく社会行動の場として機能している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クラカケベラの社会についての基盤データの獲得が想定していた以上に進み、同種が群れ型ハレムの配偶システムを有することを確認することができたが、水産重要魚種を多く含むベラ科イラ属における初めての配偶システム解明事例となるものであり、同種の寝床作りを伴った睡眠戦略の理解を進める上で重要な手掛かりになると考えている。また、寝床作りがオグロトラギスにおいて新たに確認されたが、ベラ科と異なる分類群での寝床作りの発見は、比較対象として非常に重要な役割を担うものになると考えている。 これらのデータは本研究課題の成果に多角的な視点からの意義をもたらすものであり、順調に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後においては、クラカケベラとオグロトラギスの2魚種を研究対象に研究計画に沿って睡眠戦略の追究を進める。 新しい研究対象魚として加わったオグロトラギスについては、調査地へのアプローチが比較的容易であることから、寝床の機能性に関する詳細な観察調査を実施する予定である。 また、計画当初において研究対象としていたオビテンスモドキについては、調査候補地の鹿児島県口永良部島において同種の個体群サイズが大幅に縮小していたため2022年度の調査を見送った。オビテンスモドキ個体群の回復状況は今後も注視し、状況の改善次第、調査実施を検討する予定である。
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