研究課題/領域番号 |
22K06406
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
松政 正俊 岩手医科大学, 教養教育センター, 教授 (50219474)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 東北地方太平洋沖地震津波 / 大規模撹乱 / 回復過程 / 種内・種間関係 / 河口・沿岸域 / 水辺環境 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、2011年3月の東日本太平洋沖地震・大津波後に河口の汽水域に多く見られるようになったアカテガニと、個体群の回復が遅れているクロベンケイガニの2種の半陸棲カニ類を主な対象とし、大規模撹乱後のこれらの個体群の回復過程の違いや共存に、それぞれの種の生態学的特性や種内・種間関係がどのように関係しているかを、スケール依存性や温暖化等による地理分布の変動の影響も考慮しつつ明らかにすることである。初年度には、上記2種を含む半陸棲カニ類の分布マップの解像度を上げることを目標の1つとしたが、主な調査地点である陸前高田市・古川沼において2021年にカクベンケイガニが記録されたため、その確認も行った。その結果、北限と見なされるカクベンケイガニは2022年には確認されず、2021年の個体は無効分散であったか、未だ個体群が脆弱な状況にあると推定された。岩手県内においてアカテガニとクロベンケイガニの両種が見られる地点は古川沼の1地点のみであったが、アカテガニとアシハラガニが共に見られる地点は複数確認され、両種の関係の検討および両種の共存地点へのクロベンケイガニ等の加入状況の把握が重要と考えられ、前者については安定同位体比解析用のサンプル(歩脚)を集取した。また、アカテガニとクロベンケイガニの共存地点では、前者の分布が陸側に偏る傾向が認められ、継続観察を続けることが重要と考えられた。古川沼については、管理主体が一般財団法人公園財団を共同体代表とする高田松原津波復興祈念公園マネジメント共同体(岩手県からの委託)となったため、岩手県大船渡土木センターや河川課の仲立ちにより管理団体への協力を依頼して本研究実施への理解を得た。個体群密度の推定と種内・種間関係に関する観察は予想以上に難しいことが分かったため、野外観察等と平行して飼育観察・実験を計画・実施することとし、そのための予備飼育を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
主な調査地の1つである陸前高田市・古川沼(高田松原津波復興祈念公園内)の管理が、岩手県から一般財団法人公園財団を共同体代表とする高田松原津波復興祈念公園マネジメント共同体へと委託されたため、本研究遂行についての説明や協力依頼等をあらためて行う必要があった。また、当初はビデオカメラを現場に設置して夜間における行動記録や密度推定に供する予定であったが、日中における肉眼での観察や予備的な検討(日中におけるビデオ撮影等)から観察・記録方法を変更した方が良いと思われたため関連の消耗品類の購入を延期し、インターバル撮影等による方法を検討するとともに、飼育による行動観察等も実施するための飼育を試みた。また、主な調査地において計画段階では見られなかったカクベンケイガニの生息が報告され、その状況確認にも時間・労力を要した。これらの研究手法の修正・改善等および当初予定してなかった種類の加入により、当初の予定のうち、野外の分布における解像度の向上はなされたが、野外における密度推定や種内・種間関係を検討するための行動観察についての準備が予定よりも時間がかかった。
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今後の研究の推進方策 |
2年目からは岩手県内の主な調査地点の観察を継続するとともに、古川沼の2種共存域および山田湾・織笠川河口域等の単一種生息域で野外実験を行う予定であったが、2023年度に開始予定の野外実験のための準備に遅れが生じたため、室内飼育による観察・実験も進めて野外実験のための基礎情報を得て準備を整えて野外実験に入ることとする。炭素・窒素安定同位体比解析については、アカテガニとクロベンケイガニに加えて、アシハラガニや、もしも生息が確認できた場合はカクベンケイガニ等も含めた解析を行う。日中においては、半陸棲カニ類の活動が活発となる1日の最高気温が20℃を超える5月~10月の大潮ないしは中潮の干潮時に肉眼で巣穴域における観察を進めるとともに、夜間については、肉眼に加えてインターバルカメラによる記録を試みる。個体数の多い地点については、炭素・窒素安定同位体比解析に加えて胃内容分析も行い、採餌行動の野外・室内での観察結果と合わせて、それぞれの種の餌資源推定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の計画当初はビデオカメラを現場に設置して夜間における行動記録や密度推定に供する予定であったが、日中における肉眼での観察や予備的な検討(日中におけるビデオ撮影等)から観察・記録方法を変更した方が良いと思われたため関連の消耗品類の購入を延期した。また、これに伴って野外調査・観察を補助してくれるアルバイトの雇用も見合わせたため、その分の謝金および関連の旅費も支出しなかった。2023年度には、6月までにインターバル撮影が可能な消耗品等の購入を済ませて野外および飼育による行動観察等を開始・継続する。2022年度の遅れを取り戻すためにアルバイトの雇用日数等も増やして研究を進め、2023年度分として請求した助成金と合わせて使用する計画である。
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