研究課題/領域番号 |
22K06407
|
研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
別所 和博 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (00792227)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
キーワード | 数理生物学 / 理論生物学 / 進化生態学 / 集団遺伝学 / メタ個体群 / 倍数性 / 藻類学 / 応用数学 |
研究実績の概要 |
個体が持つ染色体セット数で特徴づけられる倍数性(や核相)が個体群にもたらす構造を、それが空間構造と相似であるという視点から数理的に解析する研究を実施した。本年度は自身がこれまで取り組んできたhaploidと配偶体とdiploidの胞子体が世代交代する大型藻類の生態と進化について多くの成果を得た。まず、大型藻類で観察されるhaploid-diploid生活環についてこれまで取り組まれてきた研究を、主に数理的視点から総括し、そのまとめを和文論文として発表した。次に、haploid-diploid生活環を示す生物の個体群動態とその存続、配偶体と胞子体の存在比についての数理的解析を英文論文として発表した。さらに、haploid-diploid生活環を示す生物についての興味深い生物現象である配偶体からの胞子体への栄養供給の進化についての研究結果を英文論文として発表した。最後に、haploid配偶体とdiploid胞子体が入り交じる集団に対して、空間構造を定量する統計量として研究されてきたFstを定義し、その性質を調べるという研究を進め、その成果を論文雑誌に投稿した。年度末には日本生態学会第71回全国大会(2024年3月21日、横浜)にてシンポジウム「倍数性構造集団における生態・進化」を開催し、配偶体と胞子体の世代交代や倍数性に関する研究者らを招聘し、最新の情報を共有した。核相で特徴づけられる世代交代と倍数性は共に染色体セット数で特徴づけられるという意味では良く似た概念だが、厳密には異なる。今後、これらの分野における用語や概念等を整理し、二つの分野を統一的に扱える理論的なフレームワークを整備していきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度は大型藻類について多くの成果が得られた。特に、haploid-diploid生活環についての和文による総説、haploid-diploid生活環を示す生物の個体群動態についての論文、haploid-diploid生活環を示す生物の進化に関する論文の3報が出版された。さらに、haploid-diploid集団について定義されるFstに関する論文も投稿され、現在査読中である。また、倍数性に関するシンポジウムを開催し、メタ個体群(空間構造)と藻類の進化生態学について多くの進展が得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、倍数性構造集団における生態と進化についての理論研究を進める。倍数性構造とのアナロジーが成立する空間構造下での生物の生態・進化についての理論は、倍数性構造を示す生物に限らず応用上重要な生物も含む、多くの生物を理解するにあたり重要な知見であり、引き続き注力する。また、核相に基づく世代交代と倍数性は強い関連性を持つが、厳密には異なる概念なので、そういった染色体セット数が変化する生命現象についての用語や概念等を整理することが、今後、これらを統一的に理解するために必要となると考えており、そこにも取り組みたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
若手研究(19K16225)の研究期間が新型コロナウィルス感染症の影響で延長され、結果として、研究期間が本研究プロジェクトと重複した。本研究は上記とは異なる研究計画であるが、そこには空間構造という強い関連性があり、若手研究の発展的研究という側面をもつ。そのため、それらのシナジーの結果として、実施された研究が部分的に両方のプロジェクトに含まれる状態となり、研究費に若干余裕がでる状態となった。この余剰分を含めた研究費は、引き続き研究計画の実施にあてていく。基本的に、論文を出版する際にはそれらを全てオープンアクセスにすることで、得られた成果を広く研究者や国民に還元する方針であり、今後も研究費はそのための用途に用いる。また、学会発表で必要となる旅費や、論文を書く際に必要となる書籍等にも研究費を使用する。2023年度に生態学会大会で開催したシンポジウムは非常に良い研究交流の場となったので、今後も外部の研究者を招聘する形でシンポジウムの実施をしていこうと思っている。そこでも研究費を利用する予定である。
|