研究課題/領域番号 |
22K06423
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
高雄 元晴 東海大学, 情報理工学部, 教授 (90408013)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 網膜 / 網膜神経節細胞 / マウス / 視神経 / phototransduction / 網膜電図 / 心理物理学 / 電気生理学 |
研究実績の概要 |
本課題は、乳児期から成人にかけての内因性光感受性網膜神経節細胞とその網膜内神経回路の発達過程を生理学的に明らかにすることによって、乳幼児そして子供の心身の健やかな発達に寄与する照明機器の開発に大きく貢献することを目的としている。このため、新生仔から成体期にかけてのマウス網膜から視細胞層および網膜色素上皮を保った剥離網膜標本を作成し、脳脊髄液灌流下で局所網膜電図法により内因性光感受性網膜神経節細胞に対する錐体系シナプス入力による光反応増強効果について調べる。また、網膜の薄切標本において、これらに関わる神経回路の形成過程を組織学的に明らかにする。現在、サーカディアン照明機器の分光波長の標準化は、サーカディアンリズムの光同調に関わる内因性光感受性網膜神経節細胞のみの分光波長感度を想定した数理モデルにもとづいて行われている。一方、このモデルには内因性光感受性網膜神経節細胞は非常に高い時間分解能を有しているにも関わらずこの特性は未だ考慮されていない。さらに乳幼児や子供は成人に比べ、サーカディアンリズムの光同調に関して高い感受性を有しているが、照明環境の標準化に向けた数理モデルづくりは行われていない。本課題は、乳児期から成人にかけての内因性光感受性網膜神経節細胞とその網膜内神経回路の発達過程を生理学的に明らかにすることによって、乳幼児そして子供の心身の健やかな発達に寄与する照明機器の開発に大きく貢献することを目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
視細胞層を欠失したマウス剥離網膜標本において長時間にわたって内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsically photosensitive retinal ganglion cell)の光反応を記録する技術の開発を行なった。内因性光感受性網膜神経節細胞は細胞体や樹状突起の表面に視物質様タンパク・メラノプシン(OPN4)を発現し光電変換(phototransduction)を行なっている。内因性光感受性網膜神経節細胞の樹状突起野は網膜表面の面積にして500μmほどであることが免疫組織化学的研究によりわかっている。このため我々は電極の先端を工夫した金属電極を作成し、ほぼ単一かつ長時間にわたって細胞外から記録できる実験系を確立した。この実験系は内因性光感受性網膜神経節細胞からの電気記録に際し、優れた安定性と時間応答特性を有することがわかった。この手法により、1Hzから100Hzまで幅広い点滅光に対し最低でも30分間応答し続けることがわかった。また内因性光感受性網膜神経節細胞が最も高い視感度を有する480nmの単波長光の光刺激に対し、その輝度の増減にともなって線形に反応性が高くなることを明らかにし、これまで報告されているように内因性光感受性網膜神経節細胞は輝度検出器として網膜内で機能していることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
内因性網膜神経節細胞は視物質様タンパクOpn4(メラノプシン)を細胞体および樹状突起の表面に発現し、光電変換(phototransduction)を行なっている。一方でOpn5という新たに発見された視物質様タンパクを発現する別の網膜神経節細胞も発見されている。今後は免疫組織科学的に両網膜申請節細胞が網膜表面で織りなすモザイク構造がどのようにインタラクションし、かつそれらがどのように胎児期に形成されていくのか明らかにする。一方で本研究で確立したmicroERG法を応用し、Opn5の光反応性に関し詳細な心理物理学的特性について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、コロナ禍により度々実験を停止しなければならず、その対応のため実験回数等を減らして実施せざるをえなかったため。
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