研究課題
大脳皮質は機能的に分化した様々な領野から構成されており、領野間で情報伝達・処理を行うことによって高次機能を発揮する。従って、皮質領野間の結合回路を明らかにし、領野間での神経活動の制御について機能と関連付けて解明することは重要である。これまでに、運動野の局所回路構造に関する研究を行い、層内・層間で錐体細胞同士が投射先に依存してサブネットワークを形成していることを明らかにした。また、錐体細胞サブタイプと抑制性介在細胞間の結合回路も明らかにした。さらに、一次運動野(M1)では5層において運動学習時に特定の錐体細胞サブタイプと抑制性介在細胞であるFS(fast-spiking)細胞間の相互結合回路でオシレーションが発生し、学習形成に重要な役割を担っていることを示した。運動野は、M1と高次(二次)運動野(M2)から構成され、相互に軸索投射していることが知られている。M1‐M2領野間の結合では、互いの領野に投射する錐体細胞の皮質内分布や投射する皮質の層が異なり、相互に異なった制御様式をしていることもこれまでに示した。しかし、M2が運動学習の形成にどのように関与しているのか?また、学習形成を制御するM1のオシレーション活動は、M2からの入力によってどのように制御されているのかは知られていない。そこで本研究では、活動制御の基盤となるM1-M2領野間において細胞レベルのシナプス結合回路を明らかにし、運動学習におけるM1-M2領野間の活動制御機構を解明することを目的とした。本年度はM1‐M2領野間の結合について解析を引き続き行い、M2の錐体細胞サブタイプのM1への投射回路の運動学習への関与について解析した。
2: おおむね順調に進展している
令和5年度は、M2からM1の投射様式についてラットの脳スライス標本を用いて解析した。子宮内電気穿孔法を異なる胎生期に適用し、Creに依存して発現するプラスミドを導入した。生後にCreを発現するAAVをM2に局所注入・感染させることで、M2の2/3層や5層の錐体細胞サブタイプに限局してチャネルロドプシン(ChR2)を発現させた。M1の5層細胞から記録を行い、ChR2を発現している神経終末への光刺激によって誘発されるシナプス応答を解析・比較した。その結果、M1の5層錐体細胞にはいずれの場合もシナプス入力が多く見られた。しかし、抑制性介在細胞へのシナプス入力ではM2の錐体細胞サブタイプ間で違いが見られた。主要な介在細胞であるFS細胞とnon-FS細胞間で結合様式が異なっていた。これらは、M2は錐体細胞サブタイプに依存して、M1に対して異なる抑制系を制御していることを示唆する。M2の運動学習への関与について、M2錐体細胞サブタイプ特異的にアーキロドプシンを発現させたラットに回転かごの足場バーのバー間隔のパタン学習を行わせた。学習中にM2錐体細胞サブタイプからM1へのシナプス入力を光操作によって選択的に抑制した結果、特定のM2錐体細胞サブタイプに依存して学習形成が阻害され、M2の特定の錐体細胞サブタイプが学習形成に重要な役割を担っていることがわかった。また、M2錐体細胞サブタイプの異なる抑制系の制御による生理学的意義を検討するために学習のアップデートについて解析を進めている。パタン学習後に異なるパタンを学習させる場合へのM2錐体細胞サブタイプの寄与について検討している。当初の計画に従っておおむね研究は進んでいる。
令和6年度は、学習のアップデートに関する解析を主に進める。パタン学習後に異なるパタンを学習させ、学習中にM2錐体細胞サブタイプ選択的にM1へのシナプス入力を抑制し、学習のアップデートへの影響を解析する。また、M1及びM2から慢性細胞外記録を行い、パタン学習における神経活動も引き続き解析する。運動学習に重要な役割を担うオシレーション活動への影響や、パタンの再学習時のM1/M2の神経活動のM2錐体細胞サブタイプの寄与について検討する。また、M1-M2領野間結合のスライス実験を用いた解析もさらに進める。
本年度は、スライス実験を用いた領野間結合解析と運動学習を主に解析した。学習中の動物から慢性細胞外記録を行う実験は、学習課題の結果が明らかになった後に効率的に進めることにしたため未使用額が生じた。次年度では、パタン学習のアップデート中の動物から細胞外記録を新たに計画をしている。そのために必要な電極を購入する予定である。
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Cell Reports
巻: 23 ページ: 1-29
10.1016/j.celrep.2023.113634