研究実績の概要 |
大脳皮質の半球間投射の発達機構はマウスの第2/3層の神経細胞が持つ投射を対象に詳しく調べられ、生後1-2週の神経活動がその発達を制御することがわかっている。しかし、神経活動レベルを調節する機構はよくわかっていない。また、半球間投射は主に第2/3層と第5層の神経細胞が作るが、第5層細胞の投射は方法論の難しさから研究が進んでいない。応募者はこれまでの研究で、半球間投射を持つ第5層の神経細胞が、投射の発達時期にgap junction (GJ)で密に結合し合うネットワークを持ち(Maruoka*, Nakagawa* et al., Science 358, 610, 2017)、神経細胞間の活動レベルを均一化することを明らかにした(Nakagawa et al., Neuroscience 406, 1, 2019)。GJネットワークによる神経活動レベル調節が半球間投射の発達を制御している可能性が示唆される。そこで本研究では、「1. 第2/3層の半球間投射のGJによる制御」、「2. 第5層の半球間投射の発達過程とGJによる制御」、「3. GJ操作による投射異常が個体レベルに及ぼす影響」を明らかにする。 1.に関しては、神経活動によるヒト大脳半球間の軸索投射の制御機構の解明を目的とする、ヒトiPS細胞由来脳オルガノイド2つを軸索束で接続させて同期神経活動を解析した論文が、最近受理された(Osaki et al., Nat Commun, 15, 2945, 2024)。 2.に関しては、近い将来に研究開始する。 3.に関しては、必要となる新生児マウスからの脳活動イメージング手法の論文を投稿し最近受理された(Nakagawa-Tamagawa et al., J Vis Exp 201, 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「1. 第2/3層の半球間投射のGJによる制御」に関しては、ヒトiPS細胞由来脳オルガノイド2つを軸索束で接続させると同期した複雑な神経活動が生じることを明らかにした論文を報告し(Osaki et al., Nature Communications, 15, 2945, 2024 *2024年3月受理)、ヒトの脳での半球間投射に対して貴重な示唆を得ることができた。以上のことから、おおむね順調に進んでいる。 「2. 第5層の半球間投射の発達過程とGJによる制御」に関しては、第5層細胞への子宮内エレクトロポレーション法による遺伝子導入はすでに習熟しており、第5層細胞に特異的に目的遺伝子を導入するために必要になるTlx3-Creマウスを繁殖・維持しているが、他の研究内容を重点的に進めたため、やや遅れている。 「3. GJ操作による投射異常が個体レベルに及ぼす影響」に関しては、もともと令和5年度以降に開始する予定であり、現在は実験方法の検討と準備を主に行っている。その一環で、二光子顕微鏡を用いて生きた新生児マウスから脳活動を行うイメージング手法を確立し、投稿した論文がJournal of Visualized Experiments誌に受理された(2023.11.21受理; 筆頭著者&責任著者)。以上のことから、おおむね順調に進んでいる。 以上を総合し、おおむね順調に進んでいるとみなす。
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