研究実績の概要 |
神経細胞は刺激に応じてシナプスの伝達効率を可塑的に変化させる性質を有する。このシナプスの信号の伝達効率の変化が学習の仕組みであるという「ヘブ則」が1949年に提唱された。また同時に、刺激に応じて活動する神経細胞群により細胞集合体が形成され、そのネットワークの細胞の構造変化が記憶の実体であるという概念も提唱された。すなわち、記憶とは脳への刺激に応答した一部の神経細胞群が可塑的変化を起こし、細胞集合体(記憶痕跡回路)を形成することであると捉えることができる。さらに2011年ごろからc-fosやArcなどの前初期遺伝子を発現する一部の活性化神経細胞群が記憶痕跡回路(記憶エングラム)を形成することが明らかになった(Liu et al., Nature 2011;Kitamura et al. Science 2017)。前初期遺伝子は感覚入力などの脳への刺激に応答してその発現が誘導されるのだが、これらの発現細胞が記憶エングラムへと変化する神経細胞機序は明らかになっていない。この変化過程に関わるシナプス変化にどのような規則性があるのかを検証した。我々は新たに、記憶形成前後のマウス脳内一万超の各神経細胞の活動を広視野2光子メゾスコープで測定することで、学習前から音刺激に応答し、学習後には音刺激に応答して多領域の神経細胞と同期発火するようになる新規神経細胞群、音細胞を同定した。記憶・学習にはシナプス可塑性が深く関与すると考えられているが、シナプス可塑的変化の具体的な責任回路やシナプス部位は不明である。シナプスライブイメージングと超解像イメージング技術を駆使し、記憶形成にともなう音細胞とその接続神経回路で起こるシナプス動態を解析する。音刺激学習成立時に大脳皮質で形成される記憶ネットワークの神経形態学的基盤を明らかにする。
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