研究課題/領域番号 |
22K06520
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
荒井 秀 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (20285224)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 合成化学 / 環化付加反応 / 含窒素複素環化合物 / 立体選択的合成 / アルカロイド |
研究実績の概要 |
ポストゲノム時代の医薬品開発では核酸医薬・抗体医薬が注目を集める一方、 コスト面で優位な低分子化合物も依然として重要な創薬シーズである。特に構造多様性を有するアルカロイド類は魅力的な創薬シーズであり、それらを模倣した複雑骨格の自在合成・安定供給は創薬研究推進における不可欠な合成技術となる。 申請者は、複雑インドリン環含有のアルカロイドの多くが手つかずの創薬ターゲットであることに着眼し、コア構造となるインドリン連続4置換炭素の構築における新技術創出を目指し、研究を遂行している。 ニトロンを用いる[3+2]環化付加反応に着眼し、複雑縮環インドリン構造の一挙構築に成功した。本手法は、コプシアアルカロイド合成を指向した[3+2]環化付加反応のワンポット化から着想を得たものであり、反応基質としての用途が限定されていたイサトゲン誘導体を利用する新しい合成反応の開発に展開した。通常のアルケンに加え、酸素及び窒素官能基化されたアルケンやアレン・アルキン・ベンザインなど多様な多重結合に応用できることも見出した。いずれも生成物の位置及び立体選択性は予測可能であり、多官能性複雑縮環インドリン化合物の簡便合成における有力な選択肢となった。 一方、シアノ化によるイサトゲンの位置選択的4置換炭素の構築も確立した。本手法では、ホウ素触媒が2位シアノ化に特異的に有効であることを見出した。他のルイス酸触媒ではほとんど反応が進行しないのは、基質中の鍵元素(ケイ素と窒素)がホウ素触媒によって同時活性化されるためと推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般に2種の鎖状化合物を用いる分子間環化付加反応では単環性化合物を与える。これに対しイサトゲン3位に水酸基を導入したイサトゲノールでは、ニトロン部を含む5原子ユニットが環化素子として機能し、アクリル酸エステルとの反応では1工程で2環性化合物が位置及び立体選択的に得られることを見出した。アクリル酸α位の置換基の有無によって反応経路が変わり、位置選択性が逆転することも突き止めた。この現象は反応論的に興味深く、各種選択性発現の解明を目指してDFT計算による検証を遂行中である。尚、本手法の基質一般性は高く、多様なβ置換アクリル酸に適用可能であった。最高で4連続立体中心が厳密に制御でき、計画当初の目標としていたコプシアアルカロイドの中心母核構造の構築にも成功した。 上記の結果は、研究計画立案時には想定していなかった新知見であり、前例もない。複雑縮環分子を高選択的に一挙構築するオリジナル手法として着眼し、その合成化学的有用性を検証すべく、応用展開を計画中である(推進方策参照)。 悪性黒色腫に有効性を示す海洋アルカロイド ハレナクロムAの合成に展開し、モデル化合物での検討を終えつつある。23年度は、ハレナクロムAの初の化学合成と量的供給・絶対配置決定を目指して研究展開を行う。 また上記新技術で得られる類例のない複雑縮環インドリン化合物は、ある種の抗菌活性を示すことが明らかになった。本学における化合物ライブラリープロジェクトとの共同研究から得られた成果であり、物質供与と活性探索から創薬シーズとして縮環インドリン化合物の有用性を引き続き検証していく。
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今後の研究の推進方策 |
[3+2]環化付加反応の新手法(合成化学):イサトゲン誘導体が環化付加反応における5原子素子として機能する知見に立脚して、鎖状化合物の新しい立体制御法構築に展開する。ニトロン由来の環化付加体は適切な還元条件により酸素及び窒素官能基化された鎖状化合物に変換できる。つまり2環性環化付加体から高度に窒素・酸素・炭素官能基化された直鎖ブタン素子の立体制御を企図した。基質デザインと適切なパートナー分子の探索を網羅的に検証し、鎖状化合物の新しい立体制御法構築への端緒を探る。 不斉4置換炭素の構築(合成化学):独自に見出したイサトゲン2位の触媒的シアノ化を不斉触媒化し、生物活性物質に頻出するインドキシル構造をキラル分子として供給する新手法を確立する。ホウ素触媒のキラル化に加え、基質反応点の同時活性化を可能にするプロトン酸触媒のデザインを駆使して、新たな反応系の構築を目指す。 アルカロイド合成(合成化学):イサトゲンを用いる位置選択的[3+2]環化付加反応を利用して4置換炭素を構築し、海洋アルカロイド ハレナクロムA(抗悪性黒色腫活性)の全合成を達成する。モデル化合物での検討は終えつつあり、誘導体合成を視野に入れた合成戦略を立案して創薬展開も推進する。 生成物の生物活性評価(創薬化学):本学で推進している化合物ライブラリープロジェクトにサンプルを提供し、網羅的に生物活性位評価を行う。現在までに、ある種の環化付加体(新規化合物)に抗菌活性を見出している。また、難治性疾患の標的分子として期待される新規化合物も見いだしており、類縁化合物の提供によって創薬研究も併せて推進する予定である。
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