研究課題/領域番号 |
22K06524
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
三代 憲司 金沢大学, 新学術創成研究機構, 准教授 (60776079)
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研究分担者 |
小川 数馬 金沢大学, 新学術創成研究機構, 教授 (30347471)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 環状カルボニル化合物 / 光反応 / 生理活性 |
研究実績の概要 |
本研究では生体分子化学修飾を志向した、環状カルボニル化合物を利用する新規光反応開発、および環状カルボニル骨格をもつ新規生理活性物質の開発に取り組んでいる。生体分子修飾に利用するためには生体分子が溶解する水中で反応が起こることが求められるが、有機反応の多くは水との競合が起こるため、目的の反応の、水が関与する副反応に対する選択性が鍵となる。初年度は水中で利用可能な光反応の開発、及び計算化学による反応メカニズム解析に取り組んだ。条件検討の結果、水中で効率的に進行する光反応の開発に成功した。また、計算化学によるメカニズム解析により、水との副反応にくらべ目的の反応が大幅に有利な遷移状態を経て反応が進行することを見出した。本成果について学会発表及び招待講演を行った。 本研究ではひずんだ小員環化合物を光反応基として用いているが、これらの骨格は天然に存在せず、その生理活性は未開拓である。特徴的な構造をもつことから、従来から用いられている骨格では対応できない薬物標的に適した薬物となる可能性がある。更に、本研究でも開発するように、光反応基として利用することで薬物標的の修飾が行える可能性があり、また、小員環がもつ分光学的な特性を利用することによる特異的な検出にも利用可能である。このような観点から、ひずんだシクロプロペニウム構造をもつ新規骨格デルタグアニジンの生理活性物質骨格としての開発を行った。検討の結果デルタグアニジンを含む薬物はデルタグアニジン部分がグアニジンの薬物と同様の活性を示し、グアニジンの生物学的等価体としての可能性を示した。本成果の論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究初年度は反応剤の構造最適化のため、さまざまな置換基をもつ環状カルボニル化合物の合成を行い、それらの反応性の精査を行った。その結果、水中での光反応に適した構造を見出すことに成功し、目的の反応を高効率で達成することに成功した。また、DFT計算により反応の適切な遷移状態を求めることで反応のメカニズム解析を行った。これにより、目的の反応が起こる系において、水による副反応より目的の反応が起こりやすいこと、反応が高い位置選択性を伴って示すことを合理的に説明できるメカニズムを見出した。 更に、ひずんだ小員環骨格をもつ化合物の生理活性を明らかにするべく、生理活性が全く未開拓の小員環骨格デルタグアニジンの生理活性に関する研究を行った。がんに高発現するαvβ3インテグリンに結合するRGDペプチド中に含まれるアルギニンのグアニジン部分をデルタグアニジンに置き換えたdeltic RGDペプチドを合成し、その標的親和性、担がんモデルマウスにおける体内分布、代謝安定性の解析を行った。その結果、deltic RGDペプチドはRGDペプチドと比べると若干標的親和性が低下するものの高い標的親和性を示し、腫瘍にαvβ3インテグリン特異的な集積を示した。さらに、deltic RGDペプチドはRGDペプチドと比べ高い代謝安定性を示した。deltic RGDペプチドはデルタグアニジン骨格に由来する特徴的な分光学的特性をもつことから生体内でのイメージングへの応用が期待できる。本成果はデルタグアニジンを含む化合物の詳細な薬物としての特性を明らかにした世界初の例であり、今後、本研究をもとにデルタグアニジン骨格をもつ薬物開発が進むと期待できる。さらに、ひずんだデルタグアニジン骨格を利用する光反応を今後開発することで、デルタグアニジン骨格をもつ薬物の標的分子を化学修飾する技術の開発も期待できる。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討により、水中で利用可能な新規光反応の開発に成功した。次年度は本反応をペプチドやタンパク質等の生体分子へ適用すべく更に最適化を行う。現在までに開発した反応剤は良好な反応性を示すものの、水溶性の低さから有機溶媒を一定量反応に入れる必要があった。置換基に水溶性官能基を導入することにより溶解性の問題を解決し、有機溶媒を用いない系での光反応の達成を目指す。最適化した水溶性の反応剤を用いて、ペプチド、タンパク質の修飾を試みる。タンパク質の修飾ではタンパク質に親和性をもつリガンドを構造中に導入した反応剤を用いるアフィニティラベル化法により、特定のタンパク質の特異的な修飾を目指す。更に、本光反応で構築される骨格を足がかりに、さらなる化学修飾が行える可能性も見出しているため、その検討により、より多様な化学修飾を行う方法を確立する。 また、今回開発した光反応では生理活性物質にも多く含まれる特徴的な骨格が簡便に構築できる。これを利用して様々な誘導体を合成し、生理活性物質ライブラリ構築法としての有用性を示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は低分子を扱う研究で予想外の結果が得られたことから、詳細な解析を低分子を用いる実験及びコンピュータシミュレーションによって行ったため、使用額が当初より低予算となった。次年度以降は生体分子を扱う実験が増加することから、そのための生体試料購入費により繰越分を使用し研究を展開する。
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