研究課題/領域番号 |
22K06525
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
嵯峨 裕 大阪大学, 大学院工学研究科, 助教 (20785521)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 電気化学的有機合成 / 不活性C-H結合 / 協奏触媒 / CO2挿入 / メチルラジカル |
研究実績の概要 |
本研究では、「不活性C(sp3)-H結合に対し、電気化学的にCO2ガスを直接挿入し、1段階でカルボン酸を合成する」という、現在までに報告例が皆無である触媒方法論の創出に向けて取り組んでいる。その中で昨年度に引き続き、本研究構想に基づいた以下に示す3つの世界初の重要成果を得ることができた。
1. 有機Hydrogen Atom Transfer (HAT)分子、Ni金属触媒を電気化学的条件下協奏的に機能させる、世界に類を見ない電気駆動触媒系を開発した。本触媒系を用いることで、本研究構想で基軸としている「不活性C(sp3)-H結合に対する電気化学的CO2ガス直接挿入反応」を世界で初めて達成した。こちらは現在、研究代表者責任著者として論文投稿準備中である。 2. CO2活性化機能部位、及びCO2捕捉機能部位を有する、種々の新規多機能型Re錯体の設計・合成に成功した。これら合成した新規錯体は、NMR、ESI-MS、元素分析、単結晶X線構造解析からその構造を同定した。また、これら新規錯体種の光化学的(紫外可視吸光スペクトル・蛍光スペクトル)、電気化学的(サイクリックボルタンメトリー)性質についても精査した。加えて、本新規Re錯体を用いて、Re錯体を用いた世界初の有機分子へのCO2挿入反応を達成した。これらの成果は、研究代表者責任著者として現在論文投稿に向けて準備中である。 3. 1の達成をより発展させるべく、新たな有機HAT分子の開発に着手した。その中で、安価かつ汎用的な原料である酢酸を用いたメチルラジカルHAT剤の独自開発に世界で初めて成功した。またこのメチルラジカルを用いて、不活性ベンジル位C(sp3)-H結合に対する電気化学的アルコキシル化反応を達成した。本成果は研究代表者責任著者として、国際学術論文に掲載済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要で記載したように、本研究構想を基盤として3つの世界初の重要成果を得ることができ、更に本研究構想で基軸としている「不活性C(sp3)-H結合に対する電気化学的CO2ガス直接挿入反応」を世界で初めて達成した。これらの結果より、研究の大幅な推進を実現できたと考えている。
研究計画の第1目標として計画していた「不活性C(sp3)-H結合の均等開裂を触媒する、電気+HAT触媒の設計」において、有機HAT分子及び金属触媒の2つの異なる触媒種を電気化学的条件下機能させる、世界に類を見ない電気駆動触媒系の創製に成功した。この新規触媒系を用いることで、本研究構想の根幹を為す「不活性C(sp3)-H結合に対する電気化学的CO2ガス直接挿入反応」を世界に先駆けて達成することが出来た。 またこの知見を生かし、より活性の高い独自の有機HAT分子の開発検討を開始した。その中で、安価かつ環境負荷の無い、入手容易な汎用試薬である酢酸がメチルラジカルHAT種の前駆体となることを世界に先駆けて見出した。我々が独自に開発した本メチルラジカルHAT種を用いることで、不活性ベンジル位C(sp3)-H結合に対する電気化学的アルコキシル化反応を達成した。本系は、入手容易かつ環境負荷の無い酢酸を原料とし、廃棄物としてメタンや水素など気体のみを放出する究極的にクリーンな系である。
以上のように第1目標を実現したことに加えて、当初の計画にはなかった「有機分子へのN2ガスの電気化学的直接挿入反応」を達成する萌芽的知見も得ている。そのため、当初の計画以上に研究が進捗していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究構想の第1目標で計画していた「不活性C(sp3)-H結合の均等開裂を触媒する、電気+HAT触媒の設計」において、1. 世界初の不活性ベンジル位C(sp3)-H結合に対する電気化学的CO2ガス直接挿入反応を実現する電気+HAT(+金属)触媒系、及び、2. 安価かつ環境負荷の無い、汎用試薬酢酸を原料とした、メチルラジカルHATを利用した電気+HAT触媒系、の2つの新規触媒系の開発に成功した。加えて、第2目標で計画していた「電気+HAT触媒+金属触媒の精密設計と多彩な不活性C(sp3)-H結合への展開」においても、世界初の不活性ベンジル位C(sp3)-H結合に対する電気化学的CO2ガス直接挿入反応を実現する電気+有機分子HAT+Ni金属の協奏触媒系の精密設計に成功した。
今後、上述した新規触媒系を更に発展させ、第2目標で挙げている「多彩な不活性C(sp3)-H結合への展開」を推進する。現在までに不活性ベンジル位C(sp3)-H結合に対する電気化学的CO2ガス挿入反応に成功しているが、反応の一般性に未だに課題を残している。そのため、基質一般性の拡張に注力したい。不活性アリル位C(sp3)-H結合、不活性ヘテロ原子(窒素、酸素、硫黄等)隣接位C(sp3)-H結合、究極的にはヘキサンなどの何も足掛かりのない最難関不活性C(sp3)-H結合へのCO2挿入反応の実現に向けて、特に有機HAT分子触媒の改良を行っていきたい。具体的には、HATラジカル機能にCO2活性化機能やCO2捕捉機能を付与した、新規多機能型有機HAT分子の創製を計画している。 最終的にはこれら開発した我々の独自新規反応を駆使して、最終目標である「drug-likeな化合物群の網羅的合成」の達成に向けて努力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述の通り、当初予定していた「不活性C(sp3)-H結合に対し、電気化学的にCO2ガスを直接挿入し、1段階でカルボン酸を合成する」触媒系の開発は順調に進捗している。日常使用している電解有機合成装置の電極等の消耗品について、当初の予定と比べて劣化が遅く、購入する必要がなくなったため未使用金が生じた。 来年度は、申請書の第2目標で挙げている「多彩な不活性C(sp3)-H結合への展開」に向けて、より多くの電解反応検討が必要になると考えられる。そのため、基質の試薬、溶媒、CO2ガス、電極等の消耗品の購入に主に使用したい。
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