研究課題/領域番号 |
22K06537
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
高橋 秀依 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (10266348)
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研究分担者 |
鈴木 亮 帝京大学, 薬学部, 教授 (90384784)
伊藤 清美 武蔵野大学, 薬学部, 教授 (60232435)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 軸不斉 / アミド / チオアミド / クアゼパム / ジアゼパム |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、チオアミドの光による異性化を検討している。今年度は基礎的なチオアミド化合物の光異性化を検討した。チオベンズアニリドのE/Zジアステレオマーや軸不斉について、1H -NMRやX線結晶構造解析、HPLCを用いて精査した。オルト位の置換基を変えた6種類のベンズアニリドを合成し、そのうち1種類は109.5 kJ/molという高い熱力学的安定性を持つことを明らかにした。さらに、この化合物は、可視光領域である425 nmの光照射により1時間でE/Z比3.7:1から1:261に異性化することも分かった。現在光増感剤を用いた光異性化を目指し、検討中である。光増感剤を用いたチオアミドの光異性化はこれまで報告例がないが、高い触媒効率を示す光増感剤を見出したい。さらに、チオアミドをアミドに変換する反応についても検討した。これまで、ごくわずかな報告例があるのみであったが、簡便にアミドに戻す反応を見出すことができた。今後、本反応の一般性を検討する。以上の基礎的な検討と並行してMenkes病治療薬の開発も行っている。配位能が良いと予想された、ジスルフィド結合を環内に有する環状チオアミドを分子設計合成し、これを銅錯体化した。共同研究者に本銅錯体を病態マウスであるマクラマウスに投与していただき、脳移行性を調べていただいた。その結果、一つの銅錯体が有望であることを示唆する結果を得た。また、ベンゾジアゼピノンのアミドをチオアミド化する方法を検討し、クアゼパムの誘導体を合成することができた。本化合物は軸不斉を有しており、軸不斉異性体を単離することができた。生物活性を調べた結果、一方の軸不斉異性体が他方より高い活性を示したので、その絶対配置をX線結晶構造解析によって明らかにした。高活性な軸不斉異性体のコンホメーションはジアゼパム等のベンゾジアゼピン系医薬品と同じであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チオアミドの光異性化反応について基礎的なところから解析をしており、順調に成果が得られている。また、創薬化学への応用としてクアゼパムの9位メチル化体を合成し、薬理活性を調べることにより、活性コンホメーションを明らかにすることができた。本化合物はチオアミドを有しており、光によるチオアミドの異性化が起こると想定される。環状構造のチオアミドが光によって異性化する際、チオアミドに由来して存在する軸不斉がどのように影響を受けるのか興味深い。今年度の検討により、チオアミド化合物の合成法が確立されたので、次年度に解析を進める予定である。さらに、チオアミドからアミドへ変換する新しい反応が見つかったことは大変高く評価できる。これまでは高価なイオン性溶媒を用いて行われていたが、新たな方法によって容易にかつ安価にチオアミドをアミドに変換できることがわかった。現在、本反応の一般性を調べており、使いやすい反応として改良を進めていく予定である。また、Menke病治療薬の開発については、チオアミド構造を有する有望な新規銅錯体を見出すことができた。今後、詳細に薬物動態を解析する予定である。 以上のように、当初の計画に加えて新たな発見があり、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
環状のチオアミド化合物の合成法について確立することができたので、今後はこれを用いた光異性化反応の検討へ展開する。チオアミドの光異性化を高速、かつ低エネルギーな長波長において進めるためには、光増感剤が必要とされる。これまで既存の光増感剤について検討しているが、良い結果が得られていない。次年度は、既存の光増感剤の構造を変えた化合物を分子設計・合成し、その触媒活性を確認したい。 また、光増感剤に不斉源を導入することも検討する。既存のリボフラビンは光学活性な光増感剤であり、まずは、これを用いて軸不斉を有する化合物の光異性化反応を行う。続いて、光学活性な光増感剤を分子設計・合成して光異性化反応を検討する。 Menkes病治療薬の開発については、チオアミドを有する環状の化合物を多種類合成し、それらの脳移行性を調べ、より良い医薬品候補化合物の創出へとつなげたい。次年度は、当研究室でも脳移行性を簡便に調べることができるよう実験系を確立し、治療薬開発を加速させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究支援員の3か月分の給与として支出したため、残額が生じた。この残額は、翌年度の研究支援員の給与支払いに追加して行う予定である。また、Menkes病の治療薬開発について、銅錯体の分子設計・合成をアッセイ系の立ち上げに先んじて行ったため、残額が生じた。次年度、銅錯体の脳移行性を調べるためのPAMPAの実験系の立ち上げに残額を追加して行う予定である。
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