研究課題/領域番号 |
22K06547
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
秋田 健行 九州大学, 薬学研究院, 講師 (50294963)
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研究分担者 |
濱瀬 健司 九州大学, 薬学研究院, 教授 (10284522)
石井 千晴 九州大学, 薬学研究院, 助教 (90905308)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | HPLC / D-アミノ酸 / 鏡像異性体 / 光学分割カラム / バイオマーカー / 固定相 / キラル |
研究実績の概要 |
前年度の研究により得られた、組成を精密に制御した固定相合成法と、最適な固定相組成の合理的類推法を用いて、本研究の概念実証実験を行った。ロイシン連鎖異性体のキラル識別分析用複合型固定相をテイラーメイドし、これを用いてラット血漿および尿中含量の二次元HPLC分析法開発と含量解析を行った。これにより、本研究の概念が実現可能なことが示された。 また、ロイシン連鎖異性体のさらなる高選択的分析を目指し、ロイシン連鎖異性体どうしを高度に分離可能なアキラル分離要素の探索を行った。その結果、ピレニル基をアキラルなセレクターとしたミックスモード固定相がロイシン連鎖異性体の分離に効果的であることを見出した。さらに、上記ミックスモード固定相を二次元目、キラル固定相を三次元目として、キラル・アキラル固定相をそれぞれ独立して用いた、ヒト血漿・尿中のロイシン連鎖異性体を含む脂肪族アミノ酸のキラル識別三次元HPLC分析法を開発した。 一方これらの過程で、高いキラル識別能を有すると考えられる、光学中心に嵩高い置換基を持ったキラルセレクターにおいて、その立体障害によりキラルセレクターの最大導入率が低下する傾向が見られた。これにより、キラル・アキラル成分の組成範囲が制限され、望まれる組成の固定相合成が困難な場合が生じた。そこで、嵩高い置換基を持つキラルセレクターにリンカーを接続し、固定相への導入時の立体障害を軽減した、新たなキラル固定相を開発した。その結果、キラルセレクターの最大導入率が向上し、キラル・アキラル成分の組成バランスをより広範に設計することが可能となった。 これらの研究成果および、これに関連・派生した様々な研究について、国内外の論文誌に計9件発表し、計31件の学会発表(うち招待講演5件、国際学会6件)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画調書において、2022年度より実施する予定の「1.キラルセレクターの導入率や残存基量などを精密に制御したキラル・アキラル複合型固定相合成法の確立」「2.最適な固定相組成の合理的類推法の確立」について、前年度までにある程度達成しており、本年度はこれを用いて、「3.テイラーメイド複合型固定相を用いた実試料分析」を可能にした。 さらにこの結果をフィードバックし、新しいアキラルなセレクターをもつ、有用なミックスモード固定相を見出し、これを用いて新たな高選択的分析法を開発した。 また、これらの過程で生じた、キラルセレクターが嵩高くなるにつれ、固定相への最大導入率が低下し、キラル・アキラル成分の組成に制限が生ずるという問題点を、リンカーの導入という新たな発想で解決するに至った。この方法で設計された高いキラルセレクター導入率をもつ新たな固定相は、これまで以上に高いキラル分離能を持つ。これらの固定相を用いることで、これまでキラル分離が不十分なために困難であった、様々な微量鏡像異性体の分離が可能となった。 このように、鏡像異性体間のキラル分離と分析対象化合物と夾雑化合物のアキラル分離を高いレベルで両立するという面で、研究計画調書中の想定より研究が進展した。これにより、本研究の目的である、「これまで困難であった微量鏡像異性体の網羅的解析による創薬シーズやバイオマーカー探索の飛躍的加速」への期待がさらに高まったため、本研究の現在までの進捗状況を「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
実績の概要で記した、ピレニル基をアキラルなセレクターとしたミックスモード固定相とキラル固定相を独立して用いた、ヒト血漿・尿中のロイシン連鎖異性体を含む脂肪族アミノ酸のキラル識別三次元HPLC分析法は、高い選択性を持つ一方で、複雑な装置構成と長い分析時間を必要とする。このアキラルな分離を担う、ミックスモード固定相充填剤と、鏡像異性体の分離を担う、キラル固定相充填剤を適切な割合で混合し、ひとつのカラムに充填することで、お互いの夾雑成分となるロイシン連鎖異性体どうしの分離と、それぞれの連鎖異性体のキラル分離を一本で両立するカラムを設計できると考えられる。このように、独立に合成された固定相充填剤を混合する場合、その保持挙動は、それぞれの固定相の保持の線形結合として、よく近似できると考えられ、適切な混合割合は予測が比較的容易である。最終年度は、こうして設計・作成されたキラル・アキラル複合型固定相を用いて、より簡便かつ迅速な二次元HPLCを構築し、創薬シーズやバイオマーカー探索の飛躍的加速を図る。 また、リンカーを導入した、高いキラル分離能をもつ固定相は、キラル分離に寄与する光学中心部位と、アキラルな分離に寄与するリンカー部位を持つ複合型固定相とみなすことができる。このリンカー部位を変更することにより、そのアキラル分離を調整することができ、これにより鏡像異性体間の十分な分離を保ちながら、分析対象化合物と夾雑化合物の分離を両立した固定相のテイラーメイドが可能であると考えられる。こちらの方法も併せて応用することで、ロイシン連鎖異性体のみならず、これまでキラル分離が不十分なために困難であった様々な微量鏡像異性体も含めた網羅的な解析により、創薬シーズやバイオマーカー探索の推進を図る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費について:固定相合成においてはある程度の確率で歩留まりが発生する。そのため、固定相合成の費用に関しては歩留まりを考慮したうえで使用額を算定していた。しかし、合成技術の向上により、本年度は想定よりも大幅に低い歩留まり率で合成を行うことができた。この結果、固定相合成の回数が想定より少なく済み、これに必要な原料・試薬類の費用が大幅に削減できた。また、同様に分析カラムに関しても、想定よりも高い割合で高性能で使用目的に合致するカラムを作成することができたため、このための費用も削減できた。 旅費について:予定通り2回の国内学会発表を行ったが、1回の学会出張に関しては同時に行った発表にこの研究課題に関連しない内容も含まれたため、他の資金(運営交付金)より支出した。そのため旅費が予定より減少した。 これらの物品費、旅費等の予定からの減少により、約466,000円の次年度使用額が生じた。一方でここまでの研究成果を応用可能な微量鏡像異性体分析の対象は、当初予想よりも多岐にわたり、そのために必要な固定相合成、分析カラム充填に関する費用は、当初の算定よりも増加することが予想される。そのためこの次年度使用額を翌年度分として請求した助成金と合わせて、これらの費用に充当する計画である。
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