研究課題/領域番号 |
22K06555
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
丹羽 敏幸 名城大学, 薬学部, 教授 (30198543)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 嚥下補助 / 計数製剤 / キセロゲル / 滴下凍結 |
研究実績の概要 |
小児や高齢者など、嚥下機能の低下した患者へくすりを投与するため、薬物を含む内核をゲル化剤で被覆した新規な小球製剤(キセロゲル小球)の製剤開発を行った。コンセプト製剤の製造法として、薬物を含有する溶液(あるいは懸濁液)を液滴状にて液体窒素中に滴下することで、微小な氷粒を連続的に作製する。これを液体窒素から取り出し、凍結乾燥して液滴のサイズ・形状を保持した球形粒子を得るという手法である。ここで薬液を滴下する際、同心円状の2流体ノズルを採用し、中心液を薬液、外周液をゲル化剤溶液とすることで、薬物層をゲル化層で被覆した単一カプセル様の小球を製することを基本設計指針とした。外周液の粘度がゲル化剤により増加するため、計数製剤として適度な粒径の球形粒(小球丸剤)を得る可能性を有している。 2022年度においては、中心薬物液と外周ゲル化剤溶液の処方(成分・組成)の最適化を図った。高含量化へ向けて中心液を薬物懸濁液とし、薬物結晶によるノズル管の閉塞を回避するため薬物結晶を湿式粉砕したナノ粒子懸濁液とした。モデル薬物としてアレルギー性疾患治療薬であるフェキソフェナジン塩酸塩を採用し、薬物結晶を卓上型振動粉砕機にてビーズ粉砕し、物理的強度を増強するため、薬物懸濁液に賦形用のマンニトールを配合した。一方、外周液として嚥下補助ゼリーに使われている植物由来多糖類であるキサンタンガム、あるいは増粘剤として使われている合成高分子カルボキシビニルポリマーを採用し、高収率の処方を見い出すに至った。滴下法として、ソフトカプセルの調製に用いるカプセル化装置(B-390, 日本ビュッヒ)を利用し、2流体ノズルの内外ノズル孔径を適宜選択することで、計数製剤として適度な粒径(直径 3~6 mm)を有する球形粒(小球丸剤)を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度中に「キセロゲル小球」の製剤化処方と製造法を確立するという当初の予定通りに研究が進捗している。薬物とゲル化剤のみでは、凍結乾燥中に小球が破断するといった問題点が生じたものの、糖アルコールであるマンニトールを配合することにより、物理的強度を向上するに至った。マンニトールはわずかな甘味を持ち、口溶けが良好であるため、水なしで服用する上でも好ましい賦形剤であった。また、二重液滴の滴下方法を最適化(振動滴下法から自由落下法に変更)することで、1球あたりの薬物(フェキソフェナジン塩酸塩)含量は7~9mg程度となった。本薬物の成人用量(1回60mg)を勘案すると、1回服用量として7~9個程度となり、初期の目標を達成することができた。 内外層液の送液速度を変更することで、薬物層とゲル化層の組成比を自由に変更することにも成功した。また、2022年度に本助成金にて購入したラマン分光光度計による成分解析にて、キセロゲル小球が被覆構造体(薬物層をキサンタンガムにて被覆)であることを証明するに至り、研究投資を成果に結びつけることができた。次年度に予定していたキセロゲル小球の物性(粒子特性、薬剤特性)評価の一部もすでに遂行中であり、2023年度の研究にも順調に着手することができる状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、キセロゲル小球の物性評価と最適化のための処方改良に取り組む。粒子特性として、回収した全粒子の質量に対する破断しなかった粒子の質量比から非破断率を算出し、製造性指標とする。作製した粒子の外観をデジタルマイクロスコープにて映像化し、これを画像解析してHeywood径と形状係数(球形度)を計測する。また個々の粒子の質量を計量し、平均質量とその変動係数から質量ばらつきを評価し、調製条件の最適化へ向けフィードバックする。粒子径と質量の関係から粒子密度を算出し、多孔質粒子の内部構造を数値化するため、ガス吸着法にて比表面積を、水銀圧入法にて細孔分布を測定する。小球の破断強度を顆粒硬度試験装置にて測定し、処方の最適化のための指標とする。 一方、薬剤特性として、小球中の薬物含量をHPLC法にて定量し、計数製剤としての適性を踏まえて粒子設計を図る。1回当たりの投与数は成人体重で10個以内(8~10個程度)、含量ばらつきは日局18の製剤均一性試験に適合することとし、調製条件を決定する。日局18の溶出試験(パドル法、フロースルーセル法)にて溶出挙動・苦味マスキング性能を測定する。なお、2022年度の初期検討では、小球の物理的強度、および小球間の含量均一性が満足するものでないという課題も明らかになってきており、2023年度に並行して検討を進めていく予定である。
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