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2022 年度 実施状況報告書

アミロイド共存分子によるタンパク質凝集・線維化制御機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 22K06556
研究機関京都薬科大学

研究代表者

斎藤 博幸  京都薬科大学, 薬学部, 教授 (60300919)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード薬学 / 生物物理化学 / タンパク質 / 抗体 / アミロイドーシス
研究実績の概要

本研究課題では、全身性アミロイドーシスの前駆タンパク質としてアポA-Iや血清アミロイドA、さらには神経変性疾患タンパク質としてパーキンソン病αシヌクレインなどをターゲットとし、これら前駆タンパク質の生体夾雑環境における凝集・線維化、細胞間伝播が、細胞膜脂質や硫酸化糖鎖、アミロイド共存タンパク質であるアポA-IVやアポEなどの生体分子群との相互作用ネットワークによって制御されている分子メカニズムを解明する。さらに、アミロイド前駆タンパク質や共存分子を標的とした新規特異抗体の開発を行い、アミロイド線維高感度検出系の構築やin vivoイメージング法の検討を進める。
令和4年度は、核形成-自己触媒線維伸長モデルに基づくFinke-Watzky速度式による解析ならびに核形成・線維伸長速度定数の温度変動解析から、αシヌクレインのA30PやA53Tなどの家族性パーキンソン病変異体やレビー小体病にみられるC末欠損体(Δ104-140やΔ123-140)の凝集・線維化反応の熱力学的特性の解明を行った。その結果、αシヌクレインのA53T変異と104-140残基欠損では線維化促進のメカニズムが異なることが示唆され、A53T変異はモノマーから凝集核の形成をエンタルピー的に促進して線維化の開始を早める一方、104-140残基領域の欠損はモノマーと線維の相互作用を変化させて線維化を自己触媒的に加速することが明らかとなった。以上の結果は、家族性変異やC末欠損によるパーキンソン病発症機序解明に向けた物理化学的基盤情報を与える。
また、アミロイド共存分子としてアポA-Iと同様にアミロイド凝集傾向の高いN末領域を有するアポA-IVに関し、大腸菌大量発現・精製系の構築を行い、特に組織沈着が報告されているアポA-IV のN末70残基フラグメントについて、そのアミロイド凝集性を確認した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

申請者は近年、核形成-自己触媒線維伸長モデルに基づくFinke-Watzky速度式による解析ならびに核形成・線維伸長速度定数の温度変動解析から、アミロイドーシス変異アポA-Iの凝集・線維化反応の熱力学的特性を世界で初めて明らかにしている(JBC 294, 13515, 2019)。本研究では、同様な手法をパーキンソン病αシヌクレインの家族性変異体やレビー小体病にみられるC末欠損体(Δ104-140やΔ123-140)の凝集・線維化反応に適用することで、これら家族性変異やC末欠損がパーキンソン病発症を促進するメカニズムに関して、タンパク質分子レベルでの物理化学的機序を明らかにすることができた。
一方、血中カイロミクロンタンパク質アポA-IVは、臓器や組織において様々なアミロイド線維と共存・共沈着していることが報告されているが、そのメカニズムや病理学的意義は不明である。アポA-IVはアポA-Iと同様にアミロイド凝集傾向の高いN末領域を有しているが、本研究では、組織沈着が報告されているN末70残基フラグメントが実際にin vitroでアミロイド凝集性を示すことを、世界で初めて確認することができた。
以上のように、当初の研究計画に対しておおむね順調に進展している。

今後の研究の推進方策

令和5年度は、アミロイド共存タンパク質アポEによるアミロイド沈着促進/抑制メカニズムの解明を目的として、アポA-Iやαシヌクレインなどのアミロイドタンパク質の線維形成過程や動的構造安定性、脂質や糖鎖との相互作用におけるアポEのcofactorとしての関与を明らかにする予定である。その際、野生型であるアポE3に加え、アルツハイマー病発症危険因子であるアポE4アイソフォームやそれらの疾患関連変異の影響も検討する。さらに、細胞表面糖鎖を足場としたアミロイドタンパク質の凝集・線維化、細胞内取込み・代謝過程におけるアポEの関与を明らかにすることで、生体内夾雑環境下でのアポリポタンパク質アミロイド形成の分子機構解明に迫りたい。
また、アポEアイソフォームを標的とした抗アポE構造特異抗体の開発を進め、アポEアイソフォームを識別可能な高感度検出系の構築をおこなうことで、培養細胞や疾患組織部位でのアミロイド線維高感度検出に向けたイムノアッセイ系の構築やin vivoイメージング法の開発につなげていきたい。

次年度使用額が生じた理由

2022年度は比較的高額の物品の購入がなかったため繰越残高が生じたが、2023年度は繰越額と併せてタンパク質二次構造測定のためのATR-FTIR装置の制御用ソフトウエアの更新を予定している。

  • 研究成果

    (18件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (14件)

  • [雑誌論文] Plantainoside B in Bacopa monniera binds to Aβ aggregates attenuating neuronal damage and memory deficits induced by Aβ.2023

    • 著者名/発表者名
      Fukuda A., Nakashima S., Oda Y., Nishimura K., Kawashima H., Kimura H., Ohgita T., Kawashita E., Ishihara K., Hanaki A., Okazaki M., Matsuda E., Tanaka Y., Nakamura S., Matsumoto T., Akiba S., Saito H., Matsuda H., and Takata K.
    • 雑誌名

      Biol. Pharm. Bull.

      巻: 46 ページ: 320-333

    • DOI

      10.1248/bpb.b22-00797

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Mechanisms of enhanced aggregation and fibril formation of Parkinson’s disease-related variants of α-synuclein.2022

    • 著者名/発表者名
      Ohgita T., Namba N., Kono H., Shimanouchi T., and Saito H.
    • 雑誌名

      Sci. Rep.

      巻: 12 ページ: 6770

    • DOI

      10.1038/s41598-022-10789-6

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Design and Synthesis of 6-O-Phosphorylated Heparan Sulfate Oligosaccharides to Inhibit Amyloid β Aggregation.2022

    • 著者名/発表者名
      Uchimura K., Nishitsuji K, Chiu L.-T., Ohgita T., Saito H., Allain F., Gannedi V., Wong C.-H., and Hung S.-C.
    • 雑誌名

      ChemBioChem

      巻: 23 ページ: e202200191

    • DOI

      10.1002/cbic.202200191

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Analysis of the interaction of cyclosporine congeners with cell membrane models.2022

    • 著者名/発表者名
      Nakano M., Takechi-Haraya Y., Ohgita T., Saito H., Demizu Y., Izutsu K., and Sakai-Kato K.
    • 雑誌名

      J. Pharm. Biomed. Anal.

      巻: 218 ページ: 114874

    • DOI

      10.1016/j.jpba.2022.114874

    • 査読あり
  • [学会発表] ApoA-Iの構造安定性とアミロイド線維形成性に及ぼすアミロイドーシス変異の影響2023

    • 著者名/発表者名
      南波憲宏、上野美羽、朝比奈裕子、扇田隆司、島内寿徳、佐藤毅、斎藤博幸
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] アミロイド形成タンパク質の凝集核形成特性の速度論的解析2023

    • 著者名/発表者名
      扇田隆司、南波憲宏、河野弘樹、斎藤博幸
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] 新規抗アポEモノクローナル抗体のアポEアイソフォーム反応特性の物理化学的評価2023

    • 著者名/発表者名
      坂井瑚都、福井和華、南波憲宏、扇田隆司、木口裕貴、森田いずみ、大山浩之、長尾耕治郎、小林典裕、斎藤博幸
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] アミロイド共存タンパク質アポA-IVの物性とアミロイド線維形成促進効果2023

    • 著者名/発表者名
      内藤禎人、南波憲宏、扇田隆司、斎藤博幸
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] Bacopa monnieraに含有されるAβ結合物質plantainoside BによるAβ凝集体の検出と神経保護作用2023

    • 著者名/発表者名
      福田愛菜、中嶋聡一、尾田好美、西村周泰、河嶋秀和、木村寛之、扇田隆司、河下映里、石原慶一、花木葵、岡崎瑞紀、松田英里香、田中雪衣、中村誠宏、松本崇宏、秋葉聡、斎藤博幸、松田久司、高田和幸
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] ライトシート顕微鏡を用いたα-シヌクレインの脳内伝播の空間的可視化法の解析2023

    • 著者名/発表者名
      宗野虎滋、西村周泰、扇田隆司、伊東春香、斎藤博幸、高田和幸
    • 学会等名
      日本薬学会第143年会
  • [学会発表] 両親媒性アルギニンペプチドの脂質膜相互作用および細胞膜透過に及ぼす疎水性モーメントの影響2022

    • 著者名/発表者名
      原矢佑樹、扇田隆司、小谷真菜、河野弘樹、斉藤千尋、朝比奈裕子、西辻和親、内村健治、佐藤毅、川野竜司、加藤くみ子、伊豆津健一、斎藤博幸
    • 学会等名
      日本膜学会第44年会
  • [学会発表] シクロスポリン類縁体と細胞膜モデルとの相互作用に関する研究2022

    • 著者名/発表者名
      中尾瑞佳、原矢佑樹、扇田隆司、斎藤博幸、出水庸介、伊豆津健一、加藤くみ子
    • 学会等名
      第29回クロマトグラフィーシンポジウム
  • [学会発表] ApoA-Iアミロイド線維形成過程の速度論的並びに熱力学的解析2022

    • 著者名/発表者名
      南波憲宏、扇田隆司、島内寿徳、斎藤博幸
    • 学会等名
      第19回次世代を担う若手のためのフィジカル・ファーマフォーラム
  • [学会発表] ヒトとマウス間の比較によるαシヌクレイン線維化制御機構の解析2022

    • 著者名/発表者名
      扇田隆司、河野弘樹、森田いずみ、大山浩之、島内寿徳、小林典裕 、斎藤博幸
    • 学会等名
      第43回生体膜と薬物の相互作用シンポジウム
  • [学会発表] アミロイドーシス変異によるapoA-Iの凝集・線維化促進機構の解明2022

    • 著者名/発表者名
      南波憲宏、扇田隆司、島内寿徳、斎藤博幸
    • 学会等名
      第43回生体膜と薬物の相互作用シンポジウム
  • [学会発表] αシヌクレインの線維化及び細胞毒性に対する高凝集性領域の寄与2022

    • 著者名/発表者名
      河野弘樹、鎌田真央、南波憲宏、扇田隆司、森田いずみ、大山浩之、長尾耕治郎、小林典裕 、斎藤博幸
    • 学会等名
      第70回日本薬学会関西支部大会
  • [学会発表] 第9回日本アミロイドーシス研究会学術集会2022

    • 著者名/発表者名
      南波憲宏、扇田隆司、島内寿德、斎藤博幸
    • 学会等名
      アミロイドーシス変異apoA-Iの線維核形成はエントロピー駆動的に促進される
  • [学会発表] 脂質膜環境におけるヒト及びマウスαシヌクレインの凝集・線維化挙動2022

    • 著者名/発表者名
      扇田隆司、河野弘樹、島内寿德、斎藤博幸
    • 学会等名
      膜シンポジウム2022

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公開日: 2023-12-25  

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