研究課題/領域番号 |
22K06577
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
三木 寿美 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 特任研究員 (00632499)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 脂質 / ホスホリパーゼA2 / 細胞外小胞 / マクロファージ / 脂質メディエーター / がん / miRNA / エクソソーム |
研究実績の概要 |
細胞外小胞(EV)は、リン脂質二重膜にタンパク質やmiRNAを内包する構造体であり、がん細胞から周辺の、あるいは遠隔の細胞へと輸送されることで、がんの増殖や転移に有利な組織微小環境をもたらすことが知られているが、EVの脂質成分の影響については長らく不明だった。これまでに研究代表者は、生体膜リン脂質を加水分解する酵素であるsPLA2が脂質メディエーターを動員してがんの制御に関わることを報告しており、最近、sPLA2がEV膜リン脂質を分解してがん細胞から分泌されるEVの性質を変えることでがん病態の制御に関わるという予備知見を得た。本研究は、脂質メディエーターの供給源および運搬装置としてのEVの新たな機能に着目し、EV修飾因子としてのsPLA2の概念の確立を目指している。 本年度は、sPLA2-X処理したリンパ腫由来のEVが小型化・凝集するという前年度までに見出した知見を発展させ、新たに別の細胞由来のEVをsPLA2処理した際の性状解析を進めた。その結果、ある種の上皮系細胞由来のEVにsPLA2を作用させるとEVの粒子径が小さくなると共に、凝集塊と思われる巨大な粒子径のEV数が増加することが分かった。また、このEVのレシピエント細胞への取り込み量を測定すると、未処理のEVと同様にレシピエント細胞への取り込みが確認された。さらに、sPLA2処理したEVにおける細胞内取り込み関連輸送体などの発現が未処理のEVにおける発現レベルとは異なっていたことから、sPLA2処理したEVは細胞内取り込み関連因子の細胞表面分布を直接的あるいは間接的に制御している可能性が示唆された。これらの発見は、本課題で提唱する「EVが脂質メディエーターを能動的に運ぶ運搬体として機能する可能性」を支持する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は主に2つのテーマ「EV脂質のsPLA2による分解」および「sPLA2によりEVから産生された脂質メディエーターの機能解析」に着目して研究を進めている。前年度までに後者のテーマについては一定の成果を上げられたため、本年度は前者のテーマについて積極性に研究を実施した結果、実績に示した通りの成果が得られたことから、現在までの進捗状況は全体としておおむね順調に進展していると判断できる。 ただし、前者のテーマの内容に含まれる「EVに作用し得るsPLA2分子種の絞り込み」がまだ完了していないことから、先ずこの点を重点的に進める必要がある。また、本年度までの解析成果から、sPLA2は、EVから脂質メディエーターを産生させる機能よりもむしろEVの性状を変化させる機能の方が生理機能に対する影響が大きい可能性が示唆されている。今後は、これらの点に着目したin vivoおよびin vitroでの実験を行う方針であり、当初の計画に沿って研究を進められる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の項目を重点的に推進する。 [1] 起源の異なるEVに対する各種sPLA2の作用の体系化をさらに進めるとともに、異なるEVで共通して見られる脂質あるいは疾患別のEVの個性を特徴づける脂質の同定を推進する。 [2] 上記[1]で同定したsPLA2処理したEV に特徴的なリゾリン脂質などの脂質成分をsPLA2未処理のEVに加えて脂質組成を改変したEVを作成し、sPLA2処理したEVと同様の形態変化を示すか粒度測定計などを用いて検討する。 [3] sPLA2処理前/後のEVおよび上記改変EVをレシピエント細胞取り込ませ、miRNAの標的遺伝子発現の定量PCRを行うことで、レシピエント細胞へのEVの取り込み効率の変化や標的遺伝子の発現への影響を精査する。 [4] sPLA2の欠損マウスやノックダウン/ノックアウト細胞を用いた表現型を解析することで、内在的に発現しているsPLA2のEV機能への寄与を評価し、sPLA2処理EVを投与することによりsPLA2欠損で見られる表現型がレスキューされるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、本研究課題に関連した共同研究を積極的に実施し、様々な成果を得ることが出来た半面、自身の研究課題の実験量が相対的に低下したため、使用予定であった各種消耗品の購入額が減少した。次年度はこれらの研究活動への影響は無くなることから、以降に計画している内容を遂行するには差し支えなく、計画していた各使用内訳に変更はないものとする。 次年度使用額 (1,505,182円) の使用計画は、消耗品費として以下の通りとする。薬品・試薬類としては、遺伝子関連試薬 [遺伝子工学用酵素 (50千円×5)、PCRプライマー (2千円×10)]、細胞培養試薬 [培地 (1千円×20)、刺激剤 (30千円×10)]、免疫化学関連試薬 [抗体 (30千円×6)、染色用試薬 (10千円×3)]、質量分析関連試薬 [液体クロマトグラフィー関連器具 (20千円×5)、移動相溶媒 (10千円×15)] などの購入を見込み計上する。ガラス器具・プラスチック器具類としては、細胞培養ディッシュ (20千円×5)、遠心管 (20千円×10)、マイクロプレート (30千円×5) などの購入を見込み計上する。
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