研究課題
皮膚に存在する多様な脂質分子は,それらの組成や代謝バランスが適切に制御されることで皮膚の機能を巧みに制御している。本研究では,皮膚炎の病態依存的にどのような脂質組成の異常が,どのようなメカニズムで生じ,どのような表現型に寄与するのかを解明することを目的としている。本年度は,Jak-1の恒常的活性化によりアトピー性皮膚炎を自然発症するモデルマウス Spade(Yasuda T. et al., J Clin Invest. 2016, 126 (6))において,セラミド NDS が選択的かつ顕著に減少するメカニズムの究明を目指し,重水素標識された脂質の代謝トレーサー実験を行なった。その結果,セラミドの不飽和化活性が上昇していることが明らかとなった。一方,セラミド合成活性や長鎖塩基の de novo 合成活性には異常は認められなかった。セラミド不飽和化反応を触媒する DEGS1 の発現量を定量的 RT-PCR およびウエスタンブロッティングにより確認した結果,野生型マウスと Spade の間に顕著な差は認められなかった。次に,Spade にセラミド NDS(C24)を塗布することで皮膚炎病態を改善させるか検証したところ,皮膚炎の発症が遅延し,表皮の肥厚や細胞の過剰増殖が抑制されることが明らかとなった。同様に,炎症性サイトカイン(IL-1β, IL-6, TNF-α)の mRNA 発現量が抑制された。セラミド NDS(C16)も同様に皮膚炎抑制効果を示したことから,セラミド NDS は鎖長非依存的に皮膚炎抑制効果を示すことが明らかとなった。さらに,Spadeの表皮を電子顕微鏡により観察したところ,脂質ラメラの構造に異常が認められたことから,セラミド NDS の減少によるバリア機能低下は,脂質ラメラの構造に異常を生じたことに起因する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,Spade におけるセラミド組成異常を引き起こすメカニズムを明らかにすることができた。また,セラミド NDS により病態が抑制されることも示すことができた。そのため,おおむね順調に進展しているとした。
Spadeにおける皮膚炎抑制効果について,セラミド NDS の構造特異性を調べるために,セラミド NS の塗布実験を行う。また,さまざまな皮膚疾患において共通の脂質代謝異常が認められることから,他の皮膚炎モデルにおいても同様にセラミド代謝異常が生じるかどうか検証する。まずはアトピー性皮膚炎と類似したセラミド組成異常を示すことが知られている乾癬のモデルとして,イミキモド(TLR7 アゴニスト)の連続塗布による乾癬モデルにおいて,セラミド組成の分析を行う。さらに,セラミド組成に異常を生じる場合,そのメカニズムを追究するために,培養ケラチノサイトや皮膚ライセートを用いて酵素活性測定を行い,セラミド組成異常を引き起こす責任酵素の同定を目指す。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件)
Journal of Lipid Research
巻: 64 ページ: 100329~100329
10.1016/j.jlr.2023.100329
Journal of Biological Chemistry
巻: 10 ページ: 104603~104603
10.1016/j.jbc.2023.104603
Biological and Pharmaceutical Bulletin
巻: 45 ページ: 998~1007
10.1248/bpb.b22-00252
Journal of Investigative Dermatology
巻: 142 ページ: 2864~2872.e6
10.1016/j.jid.2022.06.003