研究課題/領域番号 |
22K06588
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研究機関 | 武蔵野大学 |
研究代表者 |
田中 健一郎 武蔵野大学, 薬学部, 講師 (30555777)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | メタロチオネイン / 大気汚染 / PM2.5 / 酸化ストレス / 肺傷害 |
研究実績の概要 |
本研究は、世界中で拡大する大気汚染による健康被害の予防法確立を目指して、メタロチオネイン (MT)の機能解析を実施する事を目的に実施している。大気中に存在するPM2.5などの大気汚染物質は、酸化ストレスを介した肺胞上皮細胞傷害や炎症反応を惹起することにより肺傷害を誘発する。しかしながら、その予防法は確立されていない。一方、MTは有害金属の解毒作用や抗酸化作用を有する生体防御タンパク質であるが、これまでに大気汚染肺傷害に対する有効性は明らかになっていない。そこで、本研究では、①大気汚染肺傷害に対するMTの有効性を解明する、②有効性を発揮する分子機構を解明する、③新たなMT誘導剤を探索し、大気汚染肺傷害の予防法を提唱するという3つの目的達成を目指して研究を開始した。2022年度は、MT欠損マウスでは野生型マウスに比べて大気汚染肺傷害(研究代表者が確立したモデル)が増悪する事を見出した。MT誘導作用を持つ事が既知化合物(以下、化合物A)の前投与により、大気汚染肺傷害が顕著に抑制される事を見出した。2そこで、2023年度は活性酸素(ROS)に着目し、MTが肺傷害を抑制する機構を探索した。in vivo imaging systemを用いた解析から、MT欠損マウスでは野生型マウスに比べて大気汚染依存のROS産生が顕著に亢進している事、野生型マウスでは化合物Aの前投与によって肺組織におけるROS産生が顕著に抑制される事を見出した。また、細胞実験系を用いた解析においても、化合物Aが大気粉塵依存のROS産生を顕著に抑制する事を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は当初の予定通り、順調に進展していると考えている。具体的には、MT欠損マウス、及び野生型マウスでの大気汚染肺傷害の比較実験、及びMT誘導作用を持つ化合物(化合物A)の大気汚染肺傷害に対する有効性解析が完了している(2022-2023年度)。また、メタロチオネインが大気汚染肺傷害を抑制する機構として、活性酸素(ROS)産生に着目した解析をin vivo, in vitroで実施する事が完了している(2023年度)。また、今後の分子機構解析やMT誘導作用を有する化合物のスクリーニングのための準備、予備検討も完了しているため、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析から、メタロチオネインが大気粉塵に起因する活性酸素(ROS)産生を抑制する事により、大気汚染肺傷害を抑制する事を示唆している。別の研究グループの報告から、PM2.5がROS産生を介して好中球炎症を促進する事や肺胞上皮細胞に傷害作用を示す事が報告されている。さらに、ROS産生を介して線維芽細胞の活性化を誘発し、コラーゲンなどの線維化関連因子の発現を増加させる事も報告されている。そこで、MTが大気汚染肺傷害を抑制する分子機構として、酸化ストレス依存の好中球炎症、肺胞上皮細胞傷害、線維芽細胞の活性化に着目し、in vivo、及びin vitro実験系を用いた解析を実施したいと考えている。さらに、これまでの報告から、大気汚染が他の呼吸器疾患 (COPD、COVID-19など)を増悪させることも大きな問題となっている。そこで、大気粉塵の前処置により他のストレスによる急性肺傷害が増悪するモデル(肺炎重症化モデル)を用いて、MTの有効性を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画より細胞培養試薬、プラスチック消耗品を安価で購入できたため、わずかではあるが次年度使用額が生じた。残額に関しては、2024年度の消耗品費用として使用したい。
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