研究課題/領域番号 |
22K06599
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
柳川 芳毅 北海道医療大学, 薬学部, 教授 (20322852)
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研究分担者 |
志賀 咲紀 北海道医療大学, 薬学部, 助教 (10898307)
水野 夏実 北海道医療大学, 薬学部, 講師 (40738621)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | M2マクロファージ / リポポリサッカライド / インターフェロン-γ / インターロイキン-4 / 組織修復 |
研究実績の概要 |
マクロファージは炎症促進型のM1マクロファージと組織修復型のM2マクロファージに大別され,M2マクロファージは消炎および組織修復の過程において重要な役割を果たしている.令和4年度では,マクロファージをインターフェロン(IFN)-γまたは菌体成分であるリポポリサッカライド(LPS)で前処理した後,インターロイキン(IL)-4で刺激すると,M2マクロファージのマーカー(M2マーカー)であるCD206およびアルギナーゼ(Arg)-1の発現が強く誘導されることを見出している. 令和5年度は,令和4年度で見出された知見の分子機構について解析を進めた.STAT6はIL-4受容体刺激によって活性化されるシグナル伝達分子であるが,IFN-γまたはLPSで前処理したマクロファージにおけるIL-4によるSTAT6の活性化は,前処理しなかった場合と同程度であった.したがって,これらの前処理によるM2マーカーの発現増強には,STAT6以外の情報伝達系が関与していると推察される.そこで,様々な情報伝達経路について検討した結果,本研究におけるM2マーカ発現増強機構には,MEK5/ERK5経路が関与していると考えられた. さらに,M2マーカーの発現増強によって,M2マクロファージの機能の指標となるマンノース受容体を介したエンドサイトーシスがどのような影響を受けるかについて検討した.その結果,M2マーカーの発現増強に伴い,マンノース受容体媒介エンドサイトーシスが著しく亢進することが見出された.すなわち,本研究で得られたM2様マクロファージでは表現型のみならず組織修復型としての機能も増強されていると考えられる.したがって,本研究で見出されたM2様マクロファージ誘導法は,炎症性疾患の新たな治療法の開発につながると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マクロファージをIFN-γまたはLPSで前処理した後,IL-4で刺激すると, M2マーカー(CD206およびArg-1)の発現が強く誘導される.令和5年度では,M2マーカーの発現増強機構の分子メカニズムについて検討した.IFN-γまたはLPSで前処理したRAW264.7マクロファージにおけるIL-4によるSTAT6の活性化は,前処理しなかった細胞と比較し同程度であることから,M2マーカーの発現増強には,STAT6以外の情報伝達経路が関与していると考えられた.そこで,ERK1/2, JNK, p38 MAPK,NF-kB, PI3K経路について,薬理学的手法を用いた検討を行った.その結果,いずれの経路もM2マーカーの発現増強に関与していないと考えられた.最近,M2マクロファージの分化にMEK5/ERK5経路が関与していると報告されている.そこで,M2マーカーの発現増強におけるMEK5/ERK5経路の関与について検討した.MEK5選択的阻害薬およびERK5選択的阻害薬は,いずれもM2マーカーの発現増強を抑制した.したがって,IFN-γまたはLPSを前処理した細胞ではMEK5/ERK5経路が強化され,IL-4によるM2マーカーの発現が増強されると推察する. さらに,M2マーカーの発現上昇とM2マクロファージとしての機能との関連について検証した.M2マクロファージはマンノース受容体であるCD206を介してコラーゲンを取り込み分解することにより組織のリモデリングに関与していると考えられている.そこで,マンノース受容体を介した抗原取り込みについて解析した.その結果,IFN-γまたはLPSの前処理によるM2マーカーの発現増強に伴い,マンノース受容体媒介エンドサイトーシスが著しく亢進することが見出された.
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は,IFN-γまたはLPSの前処理によるM2マーカー(CD206およびArg-1)発現増強の分子メカニズムについて解析し,M2マーカー発現増強にはMEK5/ERK5経路が関与していることが示唆された.したがって,IFN-γまたはLPSを前処理した細胞ではMEK5/ERK5経路が強化されていると考えられるが,現状で使用できる抗体ではMEK5/ERK5の活性(リン酸化)を検出することができなかった.今後はMEK5/ERK5の遺伝子発現やMEK5/ERK5経路の下流に位置する情報伝達分子について検討を加え,M2マーカー発現増強の分子メカニズムの解析を進めていく方針である.また,MEK5/ERK5経路やその周辺の情報伝達分子に影響を与えるような生理活性物質についても検討し,MEK5/ERK5経路に着目したM2マクロファージ誘導法の探索を行う. IFN-γまたはLPSの前処理によって,IL-4によるCD206およびArg-1の発現誘導が増強されるが,IFN-γとLPSでは,これらの分子の発現増強のパターンが異なる.LPSの前処理ではCD206の発現増強がより顕著に見られ,IFN-γ前処理ではArg-1発現増強がより顕著に見られた.この差異に着目し,CD206とArg-1の発現を個別に制御する新しいM2マクロファージ誘導法の確立を試みる. マンノース受容体であるCD206を介した抗原取り込みは,M2マクロファージとしての機能において重要である.本研究において,IFN-γまたはLPSで前処理した後,IL-4で刺激することによって得られるマクロファージでは,マンノース受容体媒介エンドサイトーシスが亢進していることを見出している.今後,このようなM2マクロファージとしての機能亢進について,マウスin vivoの実験系を用いて解析を進める予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
所属研究機関の事務手続きの不手際により一部物品の予算執行が当該年度期限に間に合わなかっため次年度使用額が生じた。当該年度に執行されなかった分については次年度に執行することとするする。
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