研究課題
がん病態は多様である。がん免疫のQualityを正しく理解し,それに基づく診断法の確立と個別治療戦略を支える創薬開発は重要である。近年,がん免疫療法として,免疫チェックポイント阻害薬や養子免疫療法が開発されているが,がん患者の免疫状態を正しく把握した診断と治療戦略のための情報が不足している。免疫応答において「抗原受容体の多様性」が応答状態や病態の度合いに相関して,経時的に変動することがわかってきた。さらに,がん関連抗原の認識に貢献できるのがBCR及びTCR由来の可変部であるので,それらを低分子化して薬物複合体とした組換えタンパク質が新規モダリティの候補となる。そこで,私たちがこれまでに確立したB細胞とT細胞の抗原受容体の多様性(レパトア)を評価できる「抗原受容体レパトローム解析法」により得られた,担がんマウスの病態の変化と相関する可変部領域を創薬に応用するプラットフォームを構築する研究を立案した。(1) 可変部領域の遺伝子をクローニングする。(2) 組換えタンパク質としてscFv-Fc,scFv,scTCR-Fcを作製する。(3) がん細胞を認識する分子を同定し薬物複合体を作製する。(4) 担がんマウスにおけて治療効果を検証する。抗体医薬品,がんワクチン,免疫細胞療法などへの応用により,効果的な治療につながり,プレシジョン医療へ貢献することを志向する。本研究の「問い」は,抗原受容体の可変部が創薬シーズとして病態の治療や診断に貢献できるかどうか?である。がん病態に焦点を絞って,これまでに明らかになっている多様性の変化を礎にし,診断と治療のための創薬プラットフォームの構築を目指す。
2: おおむね順調に進展している
2022年度は,(1)C57BL/6マウス由来のリンパ腫細胞株E.G7-OVA細胞を皮下に移植し担がんモデルマウスを作製した。経時的に採取した末梢血B細胞とT細胞から抗原受容体遺伝子をシングルセルRT-PCR法にて増幅し塩基配列を決定した。(2)がん関連抗原を認識する抗体の重鎖と軽鎖の可変部遺伝子と,OVAペプチドがMHCに提示された構造を認識するOT-IとOT-II由来のTCRの可変部遺伝子のクローニングを行った。抗体は重鎖と軽鎖,TCRはalpha/beta鎖をリンカーで結合しヒトIgG1 Fc部を融合した組換えタンパク質としてscFv-FcもしくはscTCR-Fcとして発現ベクターを作製し,293A細胞へ遺伝子導入し培養上清に産生させProtein Aカラムにて精製した。
2023年度は,(1)引き続き,scFv-FcとscTCR-Fcの作製を進める。(2)がん細胞への結合をFACSにて解析する,特異性と親和性の詳細をELISAにて解析する。結合が確認できた分子とDM1やSN-38などの抗がん剤との複合体を作製する。モデル抗原であるOVAペプチドを結合させることによりE.G7-OVA細胞への免疫応答を誘導できるか調べる。(3)E.G7-OVA細胞を移植した担がんモデルマウスに対して,それらの分子を投与し,治療効果があるか調べる。
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Glycobiology
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