研究課題/領域番号 |
22K06604
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
松下 暢子 麻布大学, 生命・環境科学部, 教授 (30333222)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | エピゲノム / クロマチン |
研究実績の概要 |
近年、大気汚染などの環境の変化や加齢、さらには過労などのストレスにより精子の機能低下がおこり、男性不妊の主要な原因となることが報告されている。この精子の機能低下の原因の一つが精子DNAの損傷であり、一見正常にみえる精子でも高い割合でDNAの損傷があることがわかってきた。環境やライフスタイルの変化は細胞にエピジェネティックな変化をもたらすが、精巣でのDNA損傷修復応答における、エピゲノム制御因子によるクロマチン再構築の果たす分子メカニズムの詳細は未だ解明されていない。 そのため、本研究では、精巣における様々な要因によるDNA損傷修復応答におけるエピゲノム制御因子の機能を解明し、クロマチン再構築によるDNA損傷応答の分子基盤を明らかにすることを目指している。そのために、放射線や抗がん剤などでのDNA損傷による男性不妊マウスモデルを用いて精子形成におけるエピゲノム制御因子の機能の解明を目的としている。 これまでに、放射線照射や抗がん剤投与によるDNA損傷により、転写活性が変化するエピゲノム制御因子を明らかにしてきた。さらに、このエピゲノム制御因子のプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子の上流に導入したレポーターコンストラクトを作製し、ルシフェラーゼベースのレポーターアッセイを行なってきた。その結果として、このエピゲノム制御因子の転写を制御する転写因子を同定しており、さらには、このエピゲノム因子を阻害し、DNA損傷修復を制御する新たな化合物を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、精巣において環境やストレスによって引き起こされるDNA損傷修復応答において、どのようにエピゲノム制御因子によるクロマチン再構築が機能しているのか、その分子メカニズムを明らかにすることを目指している。そのためには、精巣において、放射線や抗がん剤などでのDNA損傷後に変化がみられるエピゲノム制御因子を明らかにして、その機能と制御機構を解明することが必要である。 これまで、放射線照射や抗がん剤によってひきおこされるDNA損傷により、精巣において転写が活性化されるエピゲノム制御因子を明らかにしている。さらにその転写を制御する複数の因子を同定している。また、すでにCRISPR-Cas9システムを用いてHeLa細胞において、この同定されたエピゲノム制御因子を欠損させた細胞と、その欠損細胞にエピゲノム制御因子遺伝子を恒常的に発現させた細胞を作製している。現在これらの細胞において、DNA損傷修復反応にどのような変化が認められているのかについて生化学的な解析を行っている。さらにこれらの細胞を用いて、放射線照射によるDNA二重鎖切断損傷後における、ヒストンやそのほかのクロマチンタンパク質群の動態を網羅的に解析し比較検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は精巣特異的におこるエピゲノム情報によるクロマチン再構築によるDNA損傷修復反応の分子メカニズムを解明することを目的としている。 これまでに精巣特異的に転写が活性化されるエピゲノム制御因子をすでに同定しており、現在解析行っている。さらに今後は、このエピゲノム制御因子による遺伝子発現制御機構の網羅的解析を行うとともに、クロマチン構造制御機構の解明を目指す。まずDNA損傷後のエピゲノム制御因子発現細胞とその欠損細胞において、次世代シーケンサーによるRNAシーケンス解析を用い、既知の転写産物の発現定量化と配列から新規転写産物や新規スプライスジャンクションを網羅的に探索し、微量転写産物についても比較検討する。さらにゲノムクロマチン免疫沈降シーケンスを行い、エピゲノム制御因子のDNA損傷後における、ゲノム上の特異な部位への結合について調べる。 次に、すでに精巣での精子へのDNA損傷の影響が報告されている放射線照射、あるいは抗がん剤のシスプラチン、ドキソルビシンの腹腔投与を行い、1週間後にマウスの精巣の組織学的解析を行い、精細管の構造や精祖細胞から精子への分化能を解析することによって、精子形成と不妊への影響の解析を行う。さらに精巣組織を採取し遺伝子解析を行うとともに、精子の運動能力や生化学的解析を行っていく予定である。このとき、精巣における減数分裂時のDNA損傷修復反応へのエピゲノム制御因子の影響を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA損傷後のエピゲノム制御因子発現細胞とその欠損細胞において、次世代シーケンサーによるRNAシーケンス解析を用い、既知の転写産物の発現定量化と配列から新規転写産物や新規スプライスジャンクションを網羅的に探索し、微量転写産物についても比較検討する目的で進めている。そのための条件検討を行い、次世代シーケンサーによるRNAシーケンス解析をすでに進めており、次年度に結果が出ることになったため、次年度使用額が生じた。今後はこの結果をもとに解析を進めていき、エピゲノム制御因子の遺伝子発現制御機構の解析を進めていく予定である。
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