研究課題/領域番号 |
22K06636
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
斎藤 顕宜 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (00366832)
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研究分担者 |
山田 大輔 東京理科大学, 薬学部薬学科, 講師 (10621302)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | オピオイド / 情動行動 / 記憶・学習 / 動物モデル / 神経回路 / 不安 |
研究実績の概要 |
δオピオイド受容体(DOP)作動薬であるKNT-127とSNC80が、マウスの恐怖記憶の再固定化に及ぼす影響を検討した。実験には雄性C57BL/6Jマウス(6-8週齢)を文脈的恐怖条件付け試験に用いた。1日目、マウスに3回の電気ショックを足跡に与えた。2日目にDOPアゴニストを皮下投与し、マウスの扁桃体基底外側核(BLA)、腹側海馬(vHPC)、内側前頭前野の前辺縁皮質(PL)および下辺縁皮質(IL)に局所投与した。3日目にテストセッションとしてマウスをチャンバーに2分間再暴露した。その結果、KNT-127(3-10 mg/kg)は、SNC80(1-10 mg/kg)とは異なり、テストセッションにおけるマウスのすくみ行動率を有意に減少させた。さらに、KNT-127(50 ng/マウス)をBLA、IL、vHPCに投与すると、テストセッション中のすくみ行動反応を有意に減少させた。一方、PLに投与したマウスでは認められなかった。以上の結果から、KNT-127は、SNC80とは異なり、BLA、IL、vHPCを介して恐怖記憶の再固定化を抑制する作用を有することが示唆された。また、パッチクランプ法を用いて電気生理学的な検討を行った。BLAを含む脳スライスにKNT-127を還流させたところ、発火頻度が上昇する細胞と減少する細胞が認められ、BLAにおけるDOPが二相性の細胞制御機構の存在が示唆された。現在、内側前頭前野にウイルスベクターを投与したマウスを作成し、その投射先である偏桃体でチャネルロドプシンの発現を確認している。来年度は、このマウスを用いてPLおよびILから偏桃体に投射している神経回路の恐怖記憶制御機構とその分子メカニズムを明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、海馬から偏桃体に投射する神経回路を中心に検討を行う予定をしていたが、検討していくなかで、内側前頭前野から偏桃体に投射する神経回路が、恐怖記憶制御に大きく関わることを見出している。そこで現在、検討すべき神経回路を海馬ー偏桃体から、内側前頭前野ー偏桃体に焦点をあてることとしている。 今年度は、δオピオイド作動薬による恐怖記憶再固定化阻害作用に関わる脳領域(扁桃体基底外側核(BLA)、腹側海馬(vHPC)、内側前頭前野下辺縁皮質(IL))を複数見出すことができた。またこの脳領域加えて、光照射によって特定の神経細胞を活性化することができるチャネルロドプシン2(ChR2)を発現するAAVベクターをマウス内側前頭前野下辺縁皮質領域に投与し、投射先の偏桃体領域にChR2 を発現するマウスを作製することができた。このマウスを用いて偏桃体の光刺激により、生得的不安の発現には関与しないこと、一方、恐怖記憶の再固定化に関与することを明らかにしつつある。またその分子メカニズムとして、リン酸化ERKの関与が示唆されている。 来年度は、このモデルマウスを用いて光遺伝学的手法により、恐怖記憶の再固定化時における神経回路におけるδ受容体の役割とその分子機構を明らかにすることが可能となる。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、DORを介した恐怖記憶の再固定化に関わる分子システムの解明を行う。恐怖記憶の再固定化時には、偏桃体におけるリン酸化ERKシグナルの関与が報告されている。そこで、DOR選択的作動薬KNT-127を処置したマウスの恐怖記憶再固定化時に認められる偏桃体のERKシグナルに関連する分子の発現変化、さらにERKシグナル阻害剤処置によるDOR作動薬誘発の恐怖記憶再固定化阻害作用に及ぼす影響を検討する。必要に応じて、他の恐怖記憶関連シグナルであるCREBシグナルについても検討を加える。 光遺伝学的手法を用いて、PLおよびILから偏桃体に投射している神経回路が、恐怖記憶の獲得・消去・再固定化のどの状態に関係しているか、さらにその制御機構におけるδオピオイドの役割を詳細に解析する。なおこれまでの検討から、PL-PFCから偏桃体に投射する神経回路は恐怖記憶の再固定化に、IL-PFCから偏桃体に投射する神経回路は恐怖記憶の消去に関与すること、一方、生得的不安の発現には、IL-PFCではなく、PL-PFCから偏桃体に投射する神経回路が関与する可能性を見出しつつある。来年度はさらに、ChR2 陽性繊維付近の細胞からパッチクランプ記録を行い、光照射により誘発される興奮性シナプス後電流をKNT-127が抑制するか明らかにし、PL-PFCもしくはIL-PFCから偏桃体に投射する神経回路におけるDORの機能的役割を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は研究分担者の山田大輔が使用する予定だった実験にまで至らなかったため、残金として20万円残った。その実験分は次年度実施することが決定している。
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