研究課題
天然物には、さまざまな生理・生物活性を有するものが存在する。特に抗菌活性や抗がん活性などの抗生物質は、必須のハウスキーピング酵素の阻害または不活性化を介して競合する生物の成長を止めるか、または制限するために産生生物 (宿主) によって生産されると考えられている。しかし、その標的酵素が宿主にも保存されており、かつそれが生育に必須な酵素である場合、その天然物は産生宿主にも毒性を示してしまう。したがって、自己耐性システムは、生合成された天然物に抵抗性を付与するために宿主に存在しなければならない。微生物が自己耐性のために採用している一つの戦略は、機能的に等価な自己耐性酵素(SRE)を保有である。SRE は標的となるハウスキーピング酵素と配列的に非常に類似しているが、活性を維持しながらも天然物による阻害に対して酵素を非感受性にする変異を含んでいる。このSREの配列は、標的となるハウスキーピング酵素と類似しているため、バイオインフォマティクス解析によってSREの機能を容易に予測することが可能である。SREによる自己耐性システムは、生産される天然物の標的分子を表していることから、SREを含むBGCを探索することで、目的の標的分子を阻害する化合物を得ることが可能となる。これがターゲットゲノムマイニングである。本研究では、申請者がこれまで行ってきたターゲットゲノムマイニングに加えて、耐性遺伝子の産物すなわち耐性酵素が実際に標的分子であるかを明らかにし、さらにどのように耐性を獲得しているのか、その分子機構の解明を目的とする。具体的には、免疫抑制活性を有するFR901483の生合成遺伝子クラスターに存在するFrzKというSREの耐性機構を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
今年度は昨年度に続きFR901483生産菌における自己耐性酵素、FrzKの機能解析を進めた。FrzKはFR901483の生合成遺伝子クラスター中に存在する自己耐性酵素として見出されたamidophosphoribosyltranferase (PPAT) のホモログである。生合成遺伝子クラスター中に存在する耐性酵素は、本来の酵素のコピーであることが知られている。すなわち、本来の酵素が生産する化合物によって阻害されたとしても、自己耐性酵素がそれを補完するように機能している。しかしながらFR901483生産菌においては、PPATホモログはFrzKのみであったことから、FrzKは自己耐性酵素かつ唯一のPPATであることが明らかとなった。PPATは原核・真核生物問わず普遍的に存在する各酸生合成遺伝子の一つであり、比較対象として大腸菌由来PPATであるClf2を用いた。Clf2の活性はFR901483によって強く阻害されることが明らかとなった一方で、FrzKは化合物による阻害を受けなかった。そこで、阻害活性を忌避する要因となるアミノ酸残基を、Clf2-FR901483の共結晶構造およびFrzK-FR901483モデル構造を比較することで、見出すこととした。該当するアミノ酸残基に部位特異的変異を導入し、Clf2およびFrzKのFR901483に対する親和性を調べた。その結果、化合物の結合に関わるいくつかのアミノ酸残基を特定し、FrzKのFR901483に対する阻害回避メカニズムを解明することに成功した。
本研究課題の一つの目的である推定標的分子の化合物に対する非感受性機構については、明らかにすることができたため、今後は既に知られている自己耐性遺伝子を指標とした物質探索および自己耐性遺伝子を有する生合成遺伝子クラスターの探索および化合物生産を試みる予定である。
名古屋大学に所属する研究協力者との研究打合せのため、名古屋大学に出張する予定であったが、先方の予定変更により取りやめとなったため、その分の交通費を次年度に繰り越すことになった。今年度は、計画通りの予算執行に努めます。
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