研究課題
抗生物質生産菌が有する自己耐性機構の一つは、標的分子と機能的に等価な自己耐性酵素(SRE)を保有することである。SRE は標的となるハウスキーピング酵素と配列的に非常に類似しているが、活性を維持しながらも天然物による阻害に対して酵素を非感受性にする変異を含んでいる。このSREの配列は、標的となるハウスキーピング酵素と類似しているため、バイオインフォマティクス解析によってSREの機能を容易に予測することが可能である。この標的分子指向型ゲノムマイニングを行い、新しい天然物の獲得を本研究の目的としている。またそれに加えて、標的分子とSREの関係、耐性の分子機構を明らかにすることも並行して行っている。2023年度は、免疫抑制活性を有するFR901483(1)の生合成遺伝子クラスターに存在するFrzKというSREの耐性機構について研究を進めた。FrzKはホスホリボシルアミド転移酵素(PPAT)のホモログである。PPATはプリン塩基のde novo合成の初発段階を担う酵素であり、原核真核問わずあらゆる生物種に保存されている酵素である。1がPPATに対してどのように阻害を示すのかを明らかにするために、化合物との共結晶構造を解析することとした。大腸菌由来PPATを1存在下結晶化し、得られたタンパク質結晶をX線結晶構造解析に供した。その結果、1はPPATの本来の基質であるホスホリボシル二リン酸の結合部位に存在していることが明らかとなった。また、結合に関与するアミノ酸残基は、多くの生物のPPATで保存されていたが、FrzKにおいては異なるアミノ酸残基となっていた。さらにFrzKのアミノ酸残基に変異を導入することで、1によって阻害されることが明らかとなった。これらの結果は、学術雑誌であるJournal of American Chemical Society誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、標的タンパク質指向型ゲノムマイニングを行い、新しい天然物の獲得および標的タンパク質とSREの関係、耐性機能の分子機構の解明である。耐性機構については、明らかにすることができ、JACS誌(インパクトファクター:15)に掲載された。具体的には、タンパク質の配列アライメント、共結晶構造から耐性に関与するアミノ酸残基が予想された。実際にSREに該当するアミノ酸残基に変異を導入することで、SREの耐性が弱まったため、特定のアミノ酸残基が関与していることが明らかとなった。また、それらアミノ酸残基とSREのホモロジーモデリングから、その耐性機構について合理的説明がなされた。ゲノムマイニングについては、現在までに研究結果としてまとめられてはいないが、順調に進行している。
本研究課題の一つの目的である推定標的分子の化合物に対する非感受性機構については、詳細まで明らかにすることができた。今後は既に知られている自己耐性遺伝子を指標とした物質探索および自己耐性遺伝子を有する生合成遺伝子クラスターの探索および化合物生産を試みる予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件)
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