研究課題/領域番号 |
22K06693
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
森 茂太郎 国立感染症研究所, 細菌第二部, 室長 (60425676)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 結核 / リファンピシン / イソニアジド / tanshinone |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き, 化合物ライブラリーを用いて既存の抗結核薬 (イソニアジド; INHやリファンピシン; RFP) の抗結核菌活性を増強する効果を持つ化合物のスクリーニングを行った。具体的には, 7H9+glycerol+OADC 液体培地に化合物 (終濃度50μM) のみを加えた条件と, 化合物 (終濃度50μM) とRFPまたはINH (終濃度0.02μg/mL; 最小発育阻止濃度の1/3以下) を合わせて加えた条件でそれぞれ結核菌H37Rv株の培養を行い, 抗結核菌活性を示す化合物の探索を行った。3つの天然化合物ライブラリー (合計3,232品目, 一部重複あり) を用いたスクリーニングの結果から, 単独では抗結核菌活性を示さないがINHと併用した場合に抗結核菌活性が認められる化合物を114品目見出した。これらの化合物はINHの抗結核菌活性を増強していると考えられた。さらに, そのうち47品目の化合物はRFPとINHの両方の抗結核菌活性を増強する効果があることが示唆された。また, 第II相臨床試験で脱落した化合物 (天然化合物の誘導体を含む) のライブラリーを用いたスクリーニングでは, 新たに97品目をRFPの抗結核菌活性を増強する化合物として同定した。 RFPの抗結核菌活性を増強するとともに既存の抗結核薬が示す肝障害を軽減する作用を持つことが期待される化合物として見出しているtanshinonesの標的について, 細胞壁に存在しているタンパク質や脂質であることを示す結果をこれまでに得ているが, 一方で菌体内にも標的が存在することも示唆されていた。そこで, 昨年度までに得られていたtanshinones低感受性株のゲノム情報について再解析を行った。その結果, tanshinonesが解糖系やTCA回路に関わる酵素を標的としている可能性が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに結核菌H37Rv株を用いた化合物スクリーニングを進め, 計画通りにRFPやINHの抗結核菌活性を増強する化合物を同定した。また, RFPの抗結核菌活性を増強するとともに既存の抗結核薬が示す肝障害を軽減する作用を持つことが期待される化合物として見出しているtanshinonesの標的について, 低感受性株のゲノム情報を再解析することによって新たな知見を得た。一方で, 今年度はヒト肝癌由来細胞であるHepG2細胞を用いて既存の抗結核薬による肝細胞障害を軽減する天然化合物のスクリーニングも進めたが, RFPあるいはINHの抗結核菌活性を増強するとともにこれらによる肝細胞障害を軽減する作用を示す化合物を新たに同定するまでには至らなかった。本研究課題の目標である肝臓に優しい新規結核治療法の開発に向けては, 既存の抗結核薬の抗結核菌活性を増強するとともにこれらによる肝障害を軽減する作用を持つことが期待される候補化合物をtanshinones以外にも新たに複数見出すことが望ましいことから, 現在までの進捗状況についてやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き, RFPあるいはINHの抗結核菌活性を増強するとともに, これらによる肝障害を軽減する作用を持つことが期待される候補化合物を新たに同定することを試みる。まず, これまでにスクリーニングに供したライブラリーに含まれていなかった天然化合物 (968品目) について, 化合物のみを培地に含む条件と化合物に加えてRFPやINHも培地に添加した条件でそれぞれ抗結核菌活性の測定を行う。また, HepG2細胞を用いて既存の抗結核薬による肝細胞障害を緩和する作用についても検討を行う。見出した候補化合物について耐性株や低感受性株の取得を行い, そのゲノム情報を解析することによって作用機序を推定する。見出された標的候補が酵素などのタンパク質であった場合は, in silicoによるドッキングシミュレーションなどを行い, 詳細な作用機序の解明を試みる。また, ラットを用いた動物実験を行い, 肝臓保護作用の機序についても明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り, 今年度はRFPあるいはINHの抗結核菌活性を増強するとともにこれらの細胞障害を軽減することが期待される候補化合物を新たに同定するまでには至らなかったことから, 予定していた作用機序の解析 (耐性株のゲノム解析やラットを用いた動物実験) については次年度に行うこととなったため。なお, 次年度使用額の一部については, 年度末納品等にかかる支払いが令和6年4月1日以降となった分も含まれる。
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