研究課題/領域番号 |
22K06696
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
今井 哲司 和歌山県立医科大学, 薬学部, 教授 (80468579)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 感覚神経オルガノイド / 抗がん剤誘発末梢神経障害 / シュワン細胞 / 髄鞘障害 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、研究代表者が初めて開発に成功した「髄鞘を有する3次元感覚神経オルガノイド」を用いて、陽性症状(過敏)と陰性症状(鈍麻)が混在する抗がん剤末梢神経障害(Chemotherapy-Induced Peripheral Neuropathy; CIPN)の複雑な感覚異常の発症機序の真相究明を目指すことである。令和5年度では、1) オルガノイドを用いた、CIPN発症における感覚神経の機能変化の縦断的解析、2) 新規 CIPN 治療候補薬の二次スクリーニングを計画していた。 これまでに、神経マーカー遺伝子のプロモーター下にAAVでGcamp(Ca2+インジケーター)を導入しオルガノイドを構成する感覚神経を識別化し、細胞体においてGCaMP蛍光強度の変化を指標にCa2+イメージング法により神経活性変化を解析できる系を確立した。具体的には、オルガノイドの神経終末部に低濃度KClやC線維を活性化するTRPV1アゴニストであるCapsaicinなどを処置することで、オルガノイドの神経細胞体部分においてGCaMP蛍光強度の一過性の増加を確認した。現在、この系に抗がん剤処置を行い、末梢神経条件下での神経活性変化を解析中である。 また、前年度までに、シロスタゾールおよび、候補薬Xがシュワン細胞の分化を強力に促進することを見出した。これらの薬物を初代培養シュワン細胞にパクリタキセルと共処置することによって、パクリタキセルによって惹起されるシュワン細胞の脱分化を抑制できることを確認した。さらに、これらの薬物を投与することにより、パクリタキセル投与後のマウスにおける痛覚過敏が緩和された。この結果より、シロスタゾールおよび、候補薬Xはパクリタキセル誘発CIPNの治療薬として有効である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度では、1) オルガノイドを用いた、CIPN発症における感覚神経の機能変化の縦断的解析、2) 新規 CIPN 治療候補薬の二次スクリーニングを実施する計画だった。 これまでに、1)感覚神経オルガノイドでのCa2+イメージング法による神経活動変化の解析系の確立を行い、2)強力なシュワン細胞の分化誘導効果をもつ、シロスタゾールおよび候補薬Xがパクリタキセルによるシュワン細胞の脱分化やパクリタキセル投与マウスの痛覚過敏を抑制することを見出している。 1)の課題については、オルガノイドへのパクリタキセルや高濃度グルコースの処置を行い、CIPNおよび糖尿病性末梢神経障害における、神経活動変化の解析を開始しており、神経活動の変化と末梢神経の病態の関連について検証を行っている最中である。 2)の課題については、これまでの結果から、シロスタゾールや候補薬XがCIPN治療薬として有効である可能性が示唆されている。現在、候補薬Xと類似の構造を持つ薬物が同様にCIPN治療薬候補となり得るのかについての検討も進めている。 したがって、本課題の進捗状況については、当初の計画通りにおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度では、1) オルガノイドを用いた、CIPN発症における感覚神経の機能変化の縦断的解析の継続、2) 新規 CIPN 治療候補薬の二次・三次スクリーニングの実施を計画している。 1)の課題については、抗がん剤処置後のオルガノイドにおける神経活動変化をCa2+イメージング法により測定し、CIPNの初期と後期で、神経機能にどのような違いが生じるか検討を行う予定である。また、オルガノイドの神経細胞体を回収し、疼痛関連分子の発現変化についても解析を行う予定である。 2)の課題については、前年度までに同定したCIPN治療候補薬が、オルガノイドにおいて確認された脱髄、神経活性の変化、および疼痛関連分子の発現変化を抑制できるかについて評価する。また、候補薬の鎮痛効果について、他の鎮痛薬による効果との比較試験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は研究室の新規立ち上げがあり、研究時間を確保しにくい期間もあったため、少額だが一部を次年度に繰り越した。繰り越した分は、オルガノイド培養に必要な試薬の購入に充て、最終年度における各種検討に使用する予定である。
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