研究課題/領域番号 |
22K06707
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
植沢 芳広 明治薬科大学, 薬学部, 教授 (90322528)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | スティーヴンス・ジョンソン症候群 / 中毒性表皮壊死融解症 / 重症皮膚副作用 / 医薬品副作用データベース / 機械学習 / QSAR解析 / 核内受容体 / ストレス応答パスウェイ |
研究実績の概要 |
スティーヴンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症といった重症皮膚副作用(SCAR)は、高熱、粘膜疹、水疱、表皮剥離などの表皮の壊死性障害を特徴とする予後不良の重篤な疾患である。本症の一般的治療法はステロイド投与などの対症療法のみであることから、発症メカニズムに基づく新規な治療法の確立が望まれる。 2022年度は、PMDAにより公開されている医薬品副作用データベース(JADER)を用いてSCARの誘発に関連する医薬品を網羅的に解析するとともに、米国食品医薬品局(FDA)により公開されている有害事象自発報告データベースFAERSを用いて、SCARの誘発および抑制に関わる医薬品を推定するとともにSCARの発症抑制に寄与する生化学的要因を解析した。 JADERおよびFAETSにおける全掲載医薬品を対象としてSCAR発症における報告オッズ比(ROR)およびFisherの正確検定によるP値を網羅的に算出したところ、多様なSCAR誘発医薬品が推定された。この中で、特に高度な統計的有意性を示す医薬品を調査したところ、種々の全身用抗菌薬、抗てんかん薬などを見出した。一方、種々の免疫抑制薬、抗悪性腫瘍薬等にSCAR抑制傾向を認めた。 さらに、in-house機械学習予測システムを用いて薬物の化学構造から種々核内受容体およびストレス応答パスウェイのアゴニスト・アンタゴニスト活性を予測し、SCARの発症抑制に寄与する生化学的要因の解析に供した。種々医薬品とSCARの関係に基づき本症の抑制に寄与する生化学的経路を解析したところ、グルココルチコイド受容体、エストロゲン受容体等のステロイドホルモン受容体に加えて、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)等の関与が推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は医薬品副作用データベースに基づいて重症皮膚副作用と医薬品の関係を解明するとともに、重症皮膚副作用の発症メカニズムに基づく新規な治療法の確立を目指す。その過程には副作用データベースのクリーニングと既存の重症皮膚副作用治療薬に対する正しい理解に基づいた偽陽性シグナルの排除が不可欠である。さらに、化学構造情報を適切に副作用データベースに組み入れるとともに、当該情報を用いた機械学習予測の確認等の基礎的な検討が必要である。しかしながら、本課題開始時点ではこれらの各ステップにおける精密な検討は不十分であった。そこで、2022年度は最新のJADERおよびFAERSのクリーニングおよび化学構造情報の付与を実施し、MedDRAによる副作用語の統制と偽陽性の排除によって信頼性の高いシグナル検出指標を取得した。さらに、米国Tox21プロジェクトが公開している毒性関連核内受容体・ストレス応答パスウェイの活性評価結果を用いて、当研究室において構築した機械学習予測モデルを上記のシグナル検出指標に適用することにより、統計的に有意に重要副作用発症と関連する複数の生化学的経路を推定した。以上の成果は、交付申請書に記載した「研究目的」に基づいて研究がなされており、研究実績の概要に記載したように2022年度研究成果は予定どおり達成されている。2022年度に得られた研究成果については、CBI学会2022年学術大会、第8回日本医薬品安全性学会学術大会および日本薬学会第143年会等において学会発表を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、本研究として2年目であることから、交付申請書の研究実施計画に従いさらなる研究の進展をはかる。すなわち、副作用データベースに掲載された医薬品の化学構造を用いて、重症皮膚副作用の誘発予測モデルを構築し、その精度を評価しながら高精度な予測モデルへと改善していく。さらに、多様な化合物に関して本予測モデルを適用していく。具体的には、米国Tox21プロジェクトが構築したTox21 10Kライブラリに登録されている化合物のSCAR発症リスクの網羅的推定を実施する。また、同Tox21プロジェクトが公表している59種類の核内受容体・ストレス応答パスウェイのアゴニスト・アンタゴニスト活性予測モデル(構築済み)を用いて、副作用データベース中の医薬品の活性を推定するとともに、副作用データベースに掲載されていない多様な化学物質の重症皮膚副作用を推定する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況から物品費の使用を見送ったため次年度使用額が生じた。次年度の物品費として使用する予定である。
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