研究課題/領域番号 |
22K06728
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
幅野 渉 岩手医科大学, 薬学部, 教授 (50332979)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 核内受容体 / DNAメチル化 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
細胞が環境変化のストレスにさらされたとき、核内受容体aryl hydrocarbon receptor(AhR)はストレスをリガンドとして感知するセンサーと、必要な応答を誘導する転写因子の2役を担う。前研究課題では、AhRが転写因子として非メチル化状態の標的遺伝子(CYP1B1)に選択的に結合することを証明してきた。そこで本研究課題では、細胞がDNAメチル化修飾を利用してAhRを介したストレス応答を変動させる可能性を探索する。 研究期間の開始となる令和4年度は、5-aza-2’-deoxycytidine(DAC)の処理でDNA脱メチル化を誘導したヒト肝臓がんHepG2およびHuH7細胞において、AhRのリガンド(β-naphthoflavone、βNF)の曝露によりCYP2あるいはCYP3遺伝子の発現誘導が起こるのかを検証した。これらのCYP遺伝子はCYP1遺伝子とは異なり、βNFの曝露によりAhRを介した発現の誘導は起こらないことが知られている。その結果、AhRの標的XRE配列を完全に非メチル化の状態とした場合でも、発現の誘導が検出されることはなかった。これより、AhRを介した遺伝子発現誘導はXRE配列を有するだけでは起こらず、よりダイナミックなクロマチンレベルの制御機構が関わる可能性が示唆された。 AhRは生理的な条件下において、消化管や肺などの粘膜上皮における生体内の恒常性維持に関わる。これらの組織は外部環境と直接つながり、生体外のストレスを最前線で感知する場である。そこでヒト大腸がん培養細胞を消化管の上皮細胞をモデルとみなし、AhRを介したストレス応答変動に関わるDNAメチル化の役割を探索することにした。令和4年度はその準備として、5種の大腸がん細胞(LoVo、LS180、DLD-1、Caco-2、HCT116)に同様のDACおよびβNF処理を施し、RNAを回収した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレス応答のモデルとしてヒト肝臓癌および大腸がんの培養細胞を想定し、これらを対象に薬剤処理とRNAサンプルの回収を終えており、一部の遺伝子発現の変動も確認することができた。次年度はこれらのサンプルを用いて網羅解析を実施する予定であり、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に調製したRNAサンプルの一部を対象に、ヒト遺伝子発現量の網羅解析を行う(受託解析で対応する)。DACの前処理の影響でβNFによる発現誘導が増強または減弱される遺伝子を探索する。これよりDNAメチル化状態に依存して応答性が変化するAhR標的遺伝子のプロファイルが明らかになる。その中から新規のAhR標的遺伝子や脱メチル化により応答が出現する遺伝子を抽出する。これらの候補遺伝子については、XRE配列を検索し、その周辺配列のメチル化解析を行う(bisulfite sequencing)。 一方、各細胞を対象にβNFの長期間曝露を行う。曝露中は経時的にAhR標的遺伝子(CYP1B1、CYP1A1など)の発現量の誘導を測定する。誘導の応答性が増強または減弱した細胞をストレス応答の変動した細胞とみなし、XRE周辺配列のDNAメチル化状態を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に受託研究の支出を予定しており、本年度は少しでも支出を抑える必要があった。
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