研究課題
本研究は、サルファ剤の使用によって引き起こされる日本人のStevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症、薬剤過敏症症候群等の重症薬疹に、HLA-A*11:01が有意(オッズ比9.84)に関連していることを世界で初めて発見した申請者らの独自の成果に立脚し、同HLAを中心にサルファ剤による重症薬疹が発症するメカニズムを分子病態学的に解明しようとするものである。今年度は、各種のHLA-A3 supertype(HLA-A*11:01、A*03:01、A*31:01、A*33:01)を発現するB細胞株等を用い、サルファ剤(スルファメトキサゾール;SMX等)や各種代謝物(SMXニトロソ体、N-ヒロドキシ体等)および陰性対照を暴露した際の、小胞体ストレス分子(BiP、sXBP-1等)の発現や、細胞表面へのHLA分子の発現およびそのコンフォメーション、細胞生存率へ与える影響等を解析した。HLA発現は、汎HLA特異的抗体の他、変性したHLA-Aに優先的に結合する抗体や、HLA-A11特異的抗体等を用い、フローサイトメトリーにより測定した他、蛍光顕微鏡を用いて細胞膜表面への発現量を調べた。また、逆転写PCR、リアルタイムPCR、ウェスタンブロッティング、免疫沈降法により、mRNAの発現やタンパク質の発現と分子量、糖鎖修飾の有無、さらにβ2マイクログロブリンとの結合性を調べた。さらに、細胞生存率への影響については、テトラゾリウム塩を用いる比色法、ルシフェラーゼを用いる発光法、電気抵抗の経時変化を用いるラベルフリー法を用いた。一部のHLAで細胞表面への発現量およびそのコンフォメーションの異常が認められたが、概ねサルファ剤への暴露は明瞭な小胞体ストレスを誘導することはなく、細胞生存率への影響も僅かであった。次年度は、HLA-A*11:01を発現する肝細胞を樹立して解析を進める。
3: やや遅れている
複数のB細胞株を用いて、HLA-A*11:01を含むHLA-A3 supertypeの小胞体ストレスを解析できた。これは予定通り進めることができたが、期待された小胞体ストレスがあまり強くなかったため、新たな解析系を次年度に立ち上げる必要が生じたため。ただし、新たな解析系を用いて行う内容は、もともと令和5年度に実施する予定であったものとほぼ同様であるため、実質的な遅れは軽微である。
期待された小胞体ストレスがあまり強くなかったため、新たな解析系を次年度に立ち上げる。サルファ剤(SMX)が肝臓においてCYP2C9等で代謝されハプテンとして働きうることを考慮し、肝臓の細胞にCYP2C9を強発現させた系を用いて、SMX暴露時のハプテン化タンパク質やペプチドの解析を行う。さらに、ELISPOTの系を立ち上げ、抗原提示する標的細胞と末梢血単核球との相互作用を評価する系を開発する。
試薬等の必要な消耗品を購入した結果、1万円未満の残額が生じたが、次年度の試薬代等として有効に使えると判断したため繰り越すこととした。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Hepatology Research
巻: 53(5) ページ: 440-449
10.1111/hepr.13874