研究課題/領域番号 |
22K06743
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
中村 克徳 琉球大学, 病院, 教授 (20361363)
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研究分担者 |
益崎 裕章 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00291899)
安藤 雄一 名古屋大学, 医学部附属病院, 教授 (10360083)
松永 民秀 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 教授 (40209581)
莚田 泰誠 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (40392146)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | フッ化ピリミジン系抗がん剤 / 経口抗凝固薬 / PT-INR / ワルファリン / DOAC |
研究実績の概要 |
フッ化ピリミジン系抗がん剤と抗凝固薬ワルファリンの併用により、出血( PT-INR の上昇)等の副作用が起こることが臨床上の問題となっている。そのメカニズムとしてチトクロームP450(CYP)2C9 の発現量の低下が原因である事が示唆されているが、メカニズムは明らかになっていない。本研究ではフッ化ピリミジン系抗がん剤および抗凝固薬ワルファリンの主要な薬物動態関連遺伝子の mRNA 発現量に対する影響を明らかにし、薬物相互作用の原因を明らかにすることにより、適切な抗凝固治療薬の選択を可能にすることを目的とする。また、フッ化ピリミジン系抗がん剤との併用に適した直接作用型経口抗凝固薬 (direct oralanticoagulant;DOAC) を明らかにすることも目的としている。さらに、明らかにしたリスク因子を用い、血栓塞栓症の発症リスクを評価するインビトロ評価系の開発を検討する。フッ化ピリミジン系抗がん剤と抗凝固薬ワルファリンの併用については、PT-INR の上昇が起こることをカルテ調査による解析で見いだしている。また、主要な薬物動態関連遺伝子の mRNA 発現量に対する影響を明らかにし、薬物相互作用の原因を解明することにより、適切な抗凝固治療薬の選択を可能にする研究を実施する。一方、薬物相互作用研究は順調に進んでおり、CYP3A4 大腸菌発現系を用いたモデル基質とモデル阻害薬の相互作用研究は学会発表を行った。血栓塞栓症の予防治療薬の適正使用に関する調査と啓発活動を目的とした結果、主に学会、講演会や学生に対する講義で良好な反応が得られた。また、沖縄県での独自性を生かした沖縄県産野菜や健康食品の薬物相互作用の有無を明らかにする研究にも着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フッ化ピリミジン系抗がん剤は、がん化学療法のキードラッグとして多くの化学療法に用いられている。このため、何らかの原因で血栓塞栓症のリスクが高い患者においては、抗凝固療法とフッ化ピリミジン系抗がん剤の投与を同時に受ける必要がある患者が存在する。血栓塞栓症は、血液凝固能の亢進、静脈血流のうっ滞、静脈壁の障害等の因子が重なることにより静脈中に血栓が生じて血管を詰まらせる疾患である。静脈血栓塞栓症には、肺の動脈が詰まる肺血栓塞栓症と、手足の静脈が詰まる深部静脈血栓症などいくつかの種類があり、致死的な状態を招く場合がある。エコノミークラス症候群や災害発生時に窮屈な態勢を持続した場合に起こる血栓症もその1つと考えられる。がん治療などの薬物療法や生活習慣病、喫煙などがサイトカインストームを誘発し、肺血栓塞栓症の原因となることも示唆されている。そこで、本研究では、フッ化ピリミジン系抗がん剤の投与時の血栓塞栓症の治療・予防薬選択の参考とするために、遺伝子検査情報を臨床現場で有効に活用するための研究を行い、医薬品の安全・安心な使用を推進することを目的とした。具体的には、遺伝子パネル検査に基づき薬物療法の最適化の判断材料の一つとすることを目的とする。また、PT-INR や腎機能・肝機能などの臨床検査および遺伝子検査の結果から経過を慎重に観察した方が良い患者と薬剤の組み合わせを層別化して処方時にアラートを出すことや、薬効関連遺伝子診断結果に応じたワルファリンや DOAC 選択のアルゴリズムを作成することも検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
琉球大学病院でフッ化ピリミジン系抗がん剤と抗凝固薬ワルファリンを併用した患者についてカルテ情報からは、PT-INR の上昇が起こることを当研究室の研究で見いだしており、論文発表により報告した。さらに、フッ化ピリミジン系抗がん剤を肝がん由来細胞 HepG2 HepaRG 等に加えて培養し、主要な薬物動態関連遺伝子の mRNA 発現量に対する影響を明らかにした。今後は、さらに薬物相互作用の原因を明らかにすることにより、適切な抗凝固治療薬の選択を可能にする研究を実施する。一方、薬物相互作用研究は順調に進んでおり、CYP3A4 大腸菌発現系を用いたモデル基質とモデル阻害薬の相互作用研究は学会発表を行った。血栓塞栓症の予防治療薬の適正使用に関する調査と啓発活動を目的とした結果、主に学会、講演会や学生に対する講義で良好な反応が得られた。また、沖縄県での独自性を生かした沖縄県産野菜や健康食品の薬物相互作用の有無を明らかにする研究にも着手している。さらに、フッ化ピリミジン系抗がん剤および抗凝固薬ワルファリンの併用をする可能性のある医師にアンケート調査を行い、臨床現場でどの程度相互作用に関してリスクと感じているかを検証中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究をしている分担研究者が、研究をしていく過程でやむを得ない要件が生じ当初予定していた研究費を翌年度に繰り越す方が効果的な研究が実施できるとの判断から翌年度分に繰り越した。
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