研究課題/領域番号 |
22K06782
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研究機関 | 横浜薬科大学 |
研究代表者 |
矢野 健太郎 横浜薬科大学, 薬学部, 講師 (40644290)
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研究分担者 |
岩瀬 由未子 横浜薬科大学, 薬学部, 准教授 (00521882)
張 協義 高崎健康福祉大学, 薬学部, 博士研究員 (60878510)
桑原 隆 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (90786576)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | P-糖タンパク質 / がん薬物耐性 / 濾胞性リンパ腫 / 排出系トランスポーター / 抗がん薬 |
研究実績の概要 |
濾胞性リンパ腫の再発率が高い原因として、継続的な治療薬曝露により薬物を細胞内から細胞外へと排出するトランスポーターの機能が亢進し、抵抗性を獲得しているのではないか、と考え、検討を行った。本年度は、まず2種の濾胞性リンパ腫細胞株(Sci-1およびMinami-1)を用いて、濾胞性リンパ腫の治療に用いられるP-糖タンパク質(P-gp)等の基質抗がん薬であるドキソルビシン(Dox)およびビンクリスチン(Vinc)を継続暴露したときの、排出系トランスポーターのmRNA発現量、P-gpの輸送機能および薬物耐性能の変動について評価した。その結果、排出系トランスポーターであるP-gp、乳がん耐性タンパク質(BCRP)およびがん多剤耐性関連タンパク質(MRP2)いずれのmRNA発現量も上昇していたが、特にP-gpのmRNA発現量増加が顕著であった。そこで、P-gpの輸送機能を評価したところ、2種の細胞株いずれにおいても、DoxやVincを持続曝露によって、排出クリアランスの有意な増加と、この増加に対してP-gp阻害薬による有意な抑制が確認された。したがって、DoxやVincを持続曝露した細胞においては、P-gpの発現量増加による輸送機能亢進が引き起されていることが示唆された。また、DoxやVincに対する薬物耐性能の変化を明らかにするべく、感受性試験により細胞生存率を50%に低下させる各抗がん薬の濃度(IC50)を算出したところ、未処理の細胞群と比較してDoxやVincを持続曝露した細胞群で有意な増加が認められた。さらに、この増加に対しても、Veraによる有意な阻害が認められたことから、治療薬に持続曝露された細胞はP-gpの機能亢進に基づいた耐性能を獲得するものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、【薬物耐性化FLにおけるP-gpの関与】を明らかにするべく、研究計画通り検討を行った。まず、治療薬であるDoxやVincを単独あるいは併用して持続曝露した細胞を用いて、【P-gp等の遺伝子発現変動の評価】をmRNA測定により行った。DoxあるいはDox+Vinc持続曝露によって、P-gpはSci-1およびMinami-1いずれの細胞株においても有意に増加した。しかしながら、Vinc持続曝露によるP-gpの発現量はSci-1では増加したものの、Minami-1では有意な増加とは言えなかった。また、その他の薬物耐性に関わる排出系トランスポーター(BCRPとMRP2)についても網羅的に解析し、BCRPはP-gpほどではないものの増加が認められる一方で、MRP2は大きな変動はないことが確認された。さらに、多くの研究からがんの転移能との強い関連性が確認されているCD44は、Dox+VincよりもDoxを単独で持続曝露した細胞において最も高くなっていた。次に、当初の仮説通り、治療薬によるP-gpの発現誘導が確認されたことから、【P-gpの輸送機能の変動評価】の検討を行った。Sci-1およびMinami-1いずれもDoxあるいはDox+Vincの持続曝露によりP-gpの輸送機能上昇が確認された。また、【P-gpの輸送機能阻害時の薬物耐性能の変動評価】としては、DoxまたはVincに対する耐性は有意に上昇しており、この上昇はP-gp阻害薬により抑制されることを確認した。さらに、持続曝露に用いた抗がん薬とは別のP-gp基質抗がん薬であり、濾胞性リンパ腫の治療に用いられるbendamustineに対する耐性を評価したところ、P-gpの機能上昇に依存した耐性の亢進が確認された。したがって、当初の計画通り研究は遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の研究が当初の計画通り遂行できていることから、令和5年度も予定通りの検討項目を進めていく。具体的には、治療薬の継続暴露によりP-gpの機能が亢進した耐性化細胞を用いて、下記の項目について研究分担者と協力して弾力的に評価していく。【P-gpおよびCD44の膜上発現と調節因子であるERM分子種の決定】(令和5~6年度)を遂行するにあたって、以降の検討を行う。1.P-gpおよびERMの膜上発現量の変動評価(細胞全体および細胞膜画分におけるP-gpおよび各ERMのタンパク発現量をWestern blottingにより定量する。*状況に応じて免疫蛍光染色法による細胞膜上局在の評価に変更する。) 2.各ERM分子種の発現抑制時におけるP-gpの膜上発現と輸送機能の変動評価(ERM各分子の遺伝子発現をsiRNAにより抑制し、P-gpの膜上発現を調節するERM分子種を同定する。また、その分子種の発現抑制によりP-gpの機能が低下するかを令和4年度と同様のP-gp機能評価方法により評価する。) 3.CD44の膜上発現量の変動評価(上記1.と同様の手順にて膜画分を調製し、CD44の膜上発現量の変動をWestern blottingにて評価する。) 4.ERM発現抑制時のCD44の膜上発現の変動評価 (2.と同様の手法にて、CD44の膜上発現を調節するERM分子種を同定するとともに、その分子種の発現抑制により転移能が低下するかを評価する。)以上のように、各標的タンパクの膜上発現の変動を捉えるとともに、その調節因子を明らかにするための検討を推進する。
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