研究課題/領域番号 |
22K06817
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
黒田 有希子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70455343)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 骨形態 / 感覚器 / 骨芽細胞 / 血管 / 神経 |
研究実績の概要 |
申請者は中耳の耳小骨や内耳の骨迷路の研究を通し、聴覚に関連する骨が独自の形態形成や代謝制御をとることで高石灰化骨となり、聴覚器としての機能を最大限に引き出している、という仮説に基づいて研究を行っている。実際に、多くの哺乳類では、成獣の聴覚関連骨の石灰化度が高いことが知られている。ヒトの骨形成不全症(Osteogenesis imperfecta)や鎖骨頭蓋異形成症(Cleidocranial dysostosis)などの骨形成異常を呈する疾患では難聴を伴うことからも、耳周辺の骨で石灰化度が高いことが聴力に重要な役割を果たしていることが示唆される。そこで本研究では、聴覚に関連する骨と一般的な長管骨を比較解析し、「聴覚に関連する骨が音の伝達に特化した形態や性質を獲得している」という仮説を証明することを目指している。 一般的な長管骨と同様に、聴覚関連骨も軟骨原基が石灰化骨に置き換わる内軟骨性骨化により骨形成が進行する。しかし、トランスジェニックマウスの解析から耳の高石灰化骨を形成する骨芽細胞は、一般的な骨芽細胞とは異なる遺伝子発現様式を呈することが示唆された。そこで、聴覚関連骨を形成している「聴覚骨芽細胞」と一般的な骨芽細胞の具体的な差異を明らかにするために、中耳と内耳の聴覚関連骨および大腿骨骨幹部から同一の骨芽細胞マーカーを指標として骨芽細胞を分取し、各骨芽細胞のRNAシークエンスを行った。主に骨芽細胞分化、石灰化、血管新生に関連した遺伝子発現パターンを比較解析したところ、聴覚骨芽細胞で活性化しているシグナル経路と聴覚骨芽細胞独自の遺伝子候補が見つかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オステオカルシンプロモーターの下流で緑色蛍光タンパク質(topaz)を発現するトランスジェニックマウス(BGLAP-topaz)を使用することで、大腿骨からは一般的な骨芽細胞を、耳小骨と骨迷路からは聴覚骨芽細胞を単離し、遺伝子発現解析を行うことができた。その結果、骨芽細胞の分化や石灰化、細胞増殖に関する遺伝子群だけでなく、血管新生に関わる遺伝子群でも一般的な骨芽細胞と聴覚骨芽細胞で差が見られそうである。聴覚骨芽細胞は血管周囲を取り囲むように局在していることからも、骨芽細胞自体だけでなく、血管と骨芽細胞との関連が高石灰化骨を形成する要因の一つであることが示唆された。聴覚骨芽細胞に特異的な発現が見られた遺伝子や石灰化制御の遺伝子に関しては、免疫染色が可能な抗体の選別を行い、タンパク質の発現パターンを確認中である。 また、高解像度CT(コンピュータ断層撮影)を用いて撮影条件や検量線の設定、CT再構築時の条件設定などを検討することで、とても小さな骨であるマウス耳小骨(1mm程度)の骨基質に埋まった骨細胞の形や配列の観察、および骨密度の定量が可能となった。管腔構造を抽出することで血管網が描出できることから、骨密度の高い基質部位と血管の位置関係、および血管走行と骨細胞の配列を観察することができた。これらの事象から高石灰化骨と一般的な長管骨における骨基質構造の違いを比較できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
RNAシークエンスによる遺伝子解析は再現実験を行う必要があるため、BGLAP-topazマウスの繁殖と飼育は継続する。 CT解析の結果から、外形が複雑な聴覚関連骨において骨形成の方向や高石灰化部位が音の伝達という機能に及ぼす影響を理解するためには、骨形成に関わる細胞群の局在や血管網、神経走行などを三次元的に捉えることの必要性を感じている。そのため、ホールマウント免疫染色や透明化を行い、骨形態形成の制御に関わる細胞群の三次元解析を行うことを目指す。さらに、骨形成部位や方向も三次元的に捉えるため、石灰化部位を経時的に蛍光ラベルした骨を脱灰処理なしで透明化し、血管走行と同時に観察することも試みる。ホールマウント免疫染色で使用可能な抗体は透明化試薬によっても異なる場合があるので、使用する透明化試薬の決定を行った後に抗体の選別を行う。 また、聴覚異常と骨との関係を明らかにするために、難聴モデルマウスの解析も計画している。これらの解析のために、中耳・内耳の骨密度や骨形態に関する情報を取得する高解像度CT撮影後に同じサンプルをホールマウント解析するプロトコールの確立を目指す。
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