研究課題/領域番号 |
22K06823
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
早坂 晴子 近畿大学, 理工学部, 准教授 (70379246)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / リンパ節 / 画像解析 |
研究実績の概要 |
リンパ球の血液中からリンパ組織への移行はリンパ節、パイエル板に存在する高内皮細静脈 (HEV)という特殊な血管で媒介される。 DACH1 は、 HEV 形成期の未熟 HEV を含む血管内皮細胞に限局して発現する転写因子である。先行研究から、全身で恒常的に DACH1 を発現するマウス (Dach1-Tg マウス) において、HEV 特異的な接着分子である PNAd 陽性血管内皮細胞割合に有意な増加がみられ、DACH1 恒常的発現が HEV 形成を調節する可能性が示唆されている。本年度は、DACH1 恒常的発現がリンパ節の HEV 構造を変化させる可能性を検討した。野生型マウス および Dach1-Tg マウス静脈から、抗 PNAd 抗体を静脈注射し、HEVを識別した。鼠径リンパ節の断層画像を共焦点顕微鏡で取得し、画像解析ツール Metamorph Premier により HEV の形態学的解析を行った。その結果、Dach1-Tg マウス HEVは 野生型マウス HEV に比べ、血管分岐数が有意に増加することが分かった。また、HEV の全長比較を行った結果、Dach1-Tg マウスでは 野生型マウスよりも大きいことが明らかになった。これらのことから、DACH1 恒常的発現により HEV構造が変化することが明らかになった。 また、近年のシングルセル RNA-Seq 解析において、HEV 内皮細胞 (HEC) は定常 (hHEC)、脱分化 (dHEC)、炎症 (iHEC) の 3 パターンに分類されることが報告されている。生後3週目と8週目の野生型およびDach1-Tgリンパ節HECを分離し、RNA-Seq解析したところ、Dach1恒常的発現HECは未熟な遺伝子発現パターンを持つことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
画像解析により、DACH1 恒常的発現マウスリンパ節において、 HEV 構造が変化することが明らかになった。HECの遺伝子解析については、生後3週目と8週目の野生型およびDach1-Tgリンパ節HEV 内皮細胞のRNA-seqと発現遺伝子比較の結果、 Dach1-Tg マウスHECは遺伝子発現パターンが変化し、非HECあるいは 未熟 HEC 様に近づく可能性が示唆された。研究計画で予定していたHEV構造と遺伝子発現変化に関する情報が得られたことから、研究課題は概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
Dach1-Tgと野生型コントロールHECの遺伝子発現解析データから、Dach1 発現の有無で変動する遺伝子を抽出し、Dach1 の結合コンセンサス配列と照らし合わせることで、リンパ節血管内皮細胞における Dach1 のターゲット遺伝子候補を絞りこむ。またこれまでに、Dach1-Tgと野生型マウス肺癌内血管内皮細胞の遺伝子解析ダータが得られている。このデータを利用し、Dach1 のターゲット遺伝子候補をさらに絞りこむ。各遺伝子がDach1の直接のターゲットであるかを確認するため、培養細胞株にDach1発現プラスミドを導入し、各候補遺伝子の発現変動パターンをリアルタイムPCRにより解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験で使用する消耗品の支出を極力抑えたこと、細胞培養で使用するウシ血清のロットチェックと購入を次年度に持ち越した。また論文のオープンアクセス出版にかかる費用を、想定していた金額よりも低く抑えられた。生じた差額については、次年度に予定している、Dach1 コンディショナルノックアウトマウス腫瘍血管内皮細胞のRNA-seq解析に使用予定である。
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