研究課題/領域番号 |
22K06826
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長谷川 恵美 京都大学, 薬学研究科, 准教授 (40765955)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | レム睡眠 / ドーパミン / 扁桃体 / マウス |
研究実績の概要 |
本研究では、レム睡眠の開始における扁桃体機能とドーパミンの関連に着目し、扁桃体の活性化とレム睡眠の開始に関与している神経経路とメカニズムを同定することで、レム睡眠ゲーティング機構を解明することを目的とする。睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠を交互に繰り返すという特徴的な周期を持っているが、どのようにして生成されているかは全く分かっていない。一方、ヒトの脳機能イメージングや頭蓋内記録の研究により、レム睡眠時に扁桃体が賦活することが示されているが、そのメカニズムや生理学的意義は全く不明である。脳幹・視床下部のモノアミン系ニューロンにおける睡眠覚醒状態に応じた発火パターンについてはよく分かっているが、ドーパミンニューロンについては不明な点が多い。本研究では、ファイバーフォトメトリー法や光遺伝学的手法などの神経操作と電気生理学的手法を用いて、ドーパミン動態が扁桃体機能にどのような影響を与えることで、レム睡眠を開始しているかを明らかにすることを目指す。さらにシングル核解析により、扁桃体機能の修飾に関わる分子メカニズムを明らかにする。レム睡眠の抑制に関与している神経核はこれまでに多く見つかっているが、レム睡眠の開始メカニズムに着目した研究は少ないため、どのようなメカニズムがレム睡眠を開始させるのかは未解明のままである。本研究では、ノンレム睡眠中における扁桃体内ドーパミン濃度の一過的上昇に着目し、レム睡眠の発動メカニズムに繋げている点に学術的独自性がある。さらに、睡眠時のドーパミンにおける扁桃体機能の修飾を分子神経科学的に明らかにし、レム睡眠ゲーティング機構の解明へ繋げ、睡眠・覚醒サイクルの生成機構や生理学的意義の解明に取り組む点に学術的創造性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度は下記の2つの研究項目に取り組むことができ、本研究はかなり進展した。 研究項目①:睡眠・覚醒サイクルにおける各脳領域のドーパミンレベルの経時変化の測定 非拘束下のマウスで脳波・筋電図を測定しながら、ファイバーフォトメトリー法とドーパミンの蛍光センサーを用いて各脳領域のドーパミン濃度を測定し、睡眠時におけるドーパミン挙動を網羅的に調べた。扁桃体内のドーパミンレベルの経時変化を観察した結果、扁桃体基底外側部ドーパミン濃度がノンレム睡眠中に一過的に上昇し、直後にレム睡眠が開始されることを見出した。腹側被蓋野・ドーパミン作動性(VTA-DA)ニューロンは複数の脳領域に神経終末を伸ばしているため、扁桃体以外の脳領域にてドーパミンレベルを測定し、睡眠・覚醒サイクルにおける経時変化を観察したところ、睡眠・覚醒サイクルにおけるドーパミン挙動が3種類存在することを見出した。さらに、VTA-DAニューロンを光刺激にて一過的に興奮させると、レム睡眠が誘導されることが分かった。 研究項目②:レム睡眠開始の役割を果たしている扁桃体内ドーパミン受容体サブタイプの同定 扁桃体内の細胞集団には、複数のドーパミン受容体サブタイプが発現している。そのため、各ドーパミン受容体特異的Creドライバーマウスを用いて、光遺伝学的手法・薬理学的手法にて各ドーパミン受容体を介した下流経路を特異的に操作し、レム睡眠発動の有無を調べることで、受容体サブタイプの同定を試みた。光遺伝学的手法・薬理学的手法を用いて、扁桃体内の各受容体を人工的に興奮・抑制することにより、ドーパミン2受容体がレム睡眠発動に関与していることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、睡眠・覚醒サイクルにおける各脳領域のドーパミンレベルの経時変化の測定を行い、睡眠時におけるドーパミンの挙動を明らかにした。ノンレム睡眠時に扁桃体内にてドーパミンレベルが一過的に上昇し、その後レム睡眠に移行されることを見出した。ノンレム睡眠時に扁桃体へ投射しているVTA-DAニューロンを光刺激にて一過的に興奮させると、レム睡眠が誘導された。さらに、扁桃体内のドーパミン2受容体が発現している細胞集団がこのレム睡眠ゲーティング機構に関与していることが明らかになった。 2023年度以降は、レム睡眠発動に関与する扁桃体内の細胞集団特性の探索を行い、どのようにしてレム睡眠制御領域にシグナルを伝達しているのかを明らかにすることを目指す。扁桃体に投射しているVTA-DA神経終末を人為的に操作し、レム睡眠を誘導することで扁桃体内の活性化される細胞集団をラベルし、シングル核解析により扁桃体機能の修飾に関わる分子メカニズムを調べる。また、ラベルされた細胞集団がどのような脳領域に神経終末を投射しているのかを明らかにし、レム睡眠制御領域との関係性について探索する。
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