研究課題
1年目には、研究目的①と②は後述の理由で中断して、目的③に関わる研究に注力した。前実験を何度も試みたところ、損傷血管の先端のCa2+シグナルは、血管内の血流に応答して上流から下流に向かって同期していたものが遮断されただけで、損傷血管の伸長に重要ではないかもしれないことが分かってきた。筋肉層まで達する深い傷を施しても、損傷血管の下流側が活発に伸長して上流側は伸長しにくい様子が、浅い傷の時と同様に観察された。そこで、「内腔圧が血管新生を制御する機構とその生理的意義」の解明に集中した。研究計画では成魚を用いた実験計画を示していたが、胚・稚魚での発生期の血管新生での内腔圧の役割の解明も目的のためには非常に重要だと判断して、そちらに取り組むことにした。体中の血管新生が活発である受精後24-48時間胚では、ノルアドレナリンを添加した飼育水下で飼育すると、1回の薬物添加で24時間以上にわたって、心拍・血流が上昇、すなわち血管内の圧力(内腔圧)が増すことが分かった。この時の血管新生を調べたところ、顕著な変化は観られなかった。ノルアドレナリン投与18, 42, 68時間の3種類、血管新生観察のタイミング、受精後2, 3, 4日で体中の主要な血管新生を蛍光ライブイメージングで詳細に解析したが、発生期の血管新生に顕著な変化は観られなかった。また、胚・稚魚も、若干奇形や異常が増えたものの、総じて状態に問題無く発生を進めていた。したがって、発生初期の血管新生は、ノルアドレナリン添加による心拍・血流の上昇による内腔圧負荷の影響を受けにくい可能性が示唆された。いっぽう、ノルアドレナリン添加による心拍・血流の上昇は血管新生とは異なる部分で影響している可能性が観られたため、そちらの解析にも取り組み始めた。
3: やや遅れている
目的①と②に関しては、実績で報告したように、前実験で予想される結果や解釈と異なって続けていく重要性が低下してしまった。いっぽう目的③では、発生期の血管新生での内腔圧の役割を解析することを新たに追加して取り組んだ。したがって、全体としては、やや遅れ気味である。しかし、それぞれの目的を達成するための実験は効率的に進めていて、期待される結果でなくても、それぞれの実験から明確な答えを得られている。したがって、研究全体としては、大目的に向かって進めて行けていると考えられる。
引き続き研究目的③に注力する。新たに追加した目的「発生期の血管新生での内腔圧の役割」に関して、内腔圧が本当に血管新生に影響しにくいのかどうかを明確に結論付ける。そのためにはノルアドレナリン以外の薬物投与や飼育水下の塩分濃度の調節による内腔圧の増減の効果も調べてみる。また、実験過程で得た、内腔圧負荷が血管新生以外に与えている影響に関して詳細に調べていく。次に、「成魚での血管新生での内腔圧の役割」も調べていく。こちらも上述の通り、薬物投与や塩分調節で内腔圧を調節してみる。また、この成魚実験に関しては、毛細血管の根元の細動脈や細静脈を完全に損傷させることでも内腔圧の増減を調節できるため、それも試みてみる。さらに、癌での血管新生での内腔圧の影響を調べるために、癌移植モデルゼブラフィッシュの実験系の確率にも取り組む。
前の科研費19K07307から優先的に使用したことと、消耗品の購入の多くを大学から支給される研究教育予算費に依存したことによる。
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