研究課題/領域番号 |
22K06859
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
篠原 亮太 神戸大学, 医学研究科, 講師 (30769667)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | うつ病 / ストレス / 行動変容 / 神経回路 / 前頭前皮質 / 眼窩前頭皮質 / 嗅皮質 |
研究実績の概要 |
慢性ストレスは抑うつ、不安様行動、認知機能障害など多様な行動変容を誘導するが、その神経回路メカニズムは不明である。今年度は、昨年度から継続して神経応答のレポーターマウスであるArc-dVenusマウスの組織透明化による全脳イメージングを実施した。ストレスへの抵抗生を増強する急性社会ストレスと行動変容を誘導する慢性社会ストレスに伴う神経応答の脳内分布と脳領域間の機能的結合の変化を比較し、慢性社会ストレスにより複数の脳領域間で機能的結合が変化することを見出した。サポートベクターマシンとLASSOロジスティック回帰分析により、慢性社会ストレスによる神経応答のハブとなる脳領域として嗅皮質を同定した。化学遺伝学的手法により、慢性社会ストレスによる行動変容の一部にストレス暴露中の嗅皮質活性化が必要であることを示した。さらに、嗅皮質の投射脳領域を全脳で体系的に調べ、さらに投射選択的な化学遺伝学的により、慢性社会ストレスによる行動変容の誘導を担う嗅皮質の投射脳領域を同定した。 昨年度までに、逆行性感染性組換えウイルスベクターを(G欠損狂犬病ウイルスベクター)を用いて内側前頭前皮質への神経投射を全脳で体系的に調べ、慢性社会ストレスによる行動変容の維持・増悪に伴い、海馬や嗅皮質から内側前頭前皮質への軸索投射が減少する一方で、眼窩前頭皮質から内側前頭前皮質への軸索投射が増加することを示してきた。当該年度は、投射選択的な化学遺伝学的手法を用い、眼窩前頭皮質-内側前頭前皮質は慢性社会ストレスによる行動変容の長期的な維持に必須であることを示した。 今後、神経回路の構造的再編成の分子機序やそれに伴う脳情報処理を調べることで、慢性ストレスによる行動変容の多様性を生み出す神経回路メカニズムを解明し、うつ病など精神疾患の新規治療標的の同定につなげたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、神経応答のレポーターマウスであるArc-dVenusマウスの組織透明化による全脳イメージング解析から慢性ストレスによる神経応答のハブとなる脳領域として嗅皮質を同定し、化学遺伝学的手法により慢性社会ストレスにおける行動変容の誘導における嗅皮質とその神経投射の役割を明らかにした。現在、本研究成果について論文投稿を準備している。加えて当該年度は、慢性社会ストレスによる眼窩前頭皮質から内側前頭前皮質への軸索投射の増加の意義を投射選択的な化学遺伝学的手法により調べ、慢性社会ストレスによる行動変容の維持に必須であることを見出した。従って、研究計画は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、主に慢性社会ストレスによる行動変容の維持における眼窩前頭皮質-内側前頭前皮質投射の役割とメカニズムを継続して調べる。慢性社会ストレスによる神経回路の構造的再編に伴う神経活動を、Neuropixelsによるインビボ電気生理記録により調べる。バルク・単一核RNA-seq解析により眼窩前頭皮質や当該投射の遺伝子発現解析を行い、変化した遺伝子群を操作して、ストレス終了から数週間にかけて神経回路の構造的再編とその持続を担う分子機序を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、神経応答の全脳イメージングや逆行性感染性ウイルスベクターにより慢性社会ストレスによる行動変容に伴う神経応答や神経回路の構造的再編を示し、化学遺伝学的手法による神経活動操作によりこれらの意義を明らかにするなど、予定通り進捗した。さらに、慢性社会ストレスによる神経回路の構造的再編の分子機序に迫るため、バルク・単一核RNA-seqによる遺伝子発現解析にも着手したが、これらの実験に必要な物品の一部は既に入手できていたため、消耗品等への支出が予定より下回った。次年度も引き続きバルク・単一核RNA-seq解析を計画しておりコストがかかるため、翌年度分として請求した。
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