研究課題/領域番号 |
22K06862
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
原田 佳奈 広島大学, 医系科学研究科(医), 助教 (90609744)
|
研究分担者 |
酒井 規雄 広島大学, 医系科学研究科(医), 教授 (70263407)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | セロトニントランスポーター / S-パルミトイル化 |
研究実績の概要 |
セロトニントランスポーター(SERT)は、細胞膜において細胞外のセロトニンを細胞内に取り込むタンパク質である。うつ病治療にはSERTを阻害する薬物などが用いられるが、副作用の問題や既存薬が無効な例もあり、新たな抗うつ薬が求められている。近年、うつ病の自殺者や動物モデルの脳では、タンパク質の翻訳後修飾の一つであるS-パルミトイル化(システイン残基のSH基にパルミチン酸が付加する。)に変調をきたしていることが報告された。このような背景のもとSERTのS-パルミトイル化を調べたところ、システイン残基Cys-147/155がS-パルミトイル化されることが示唆された。本研究では抗うつ薬の創薬ターゲットとしてのSERTのS-パルミトイル化の可能性を探るために、SERTのS-パルミトイル化の役割や制御機構を検討する。2022年度は、S-パルミトイル化部位Cys-147/155をアラニンに置換したC147/155A SERTをヒト胎児腎細胞株AD293に一過性発現させ、野生型(WT)SERTと比較することにより、SERTのS-パルミトイル化の役割を検討した。免疫蛍光染色による観察では、C147/155A SERTはWT SERTと比べて細胞内部に蓄積していた。さらに、細胞表面ビオチン化法により、C147/155A変異はSERTの細胞膜への発現を低下させることが明らかになった。また、SERT基質の取り込み量は、WT SERT発現細胞と比べてC147/155A SERT発現細胞の方が少なかった。一方、Cys-147のみアラニンに置換したC147A変異は、SERTの細胞膜発現を低下させなかったが、基質取り込みを低下させた。これらのことから、Cys-147/155のS-パルミトイル化は、SERTの細胞膜への発現とセロトニン取り込み能に促進的に働くことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、S-パルミトイル化がSERTの細胞膜への発現とセロトニン取り込みに促進的に働く可能性をAD293細胞を用いて示した。これはSERTのS-パルミトイル化の役割の解明につながる成果であり、進捗状況はおおむね当初の計画通りである。
|
今後の研究の推進方策 |
新規に合成されたSERTは、小胞体で折りたたまれた後、ゴルジ体を経て細胞膜に輸送される。2022年度までの研究成果は、小胞体におけるSERTの折りたたみ、小胞体から細胞膜へのSERTの輸送、細胞膜におけるSERTのセロトニン取り込み能などがS-パルミトイル化の影響を受ける可能性を示す。これらの可能性をふまえ、SERTのS-パルミトイル化の役割と制御機構の詳細を解明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2022年度はAD293細胞を用いたSERTのS-パルミトイル化の役割と制御機構の解析を計画していたが、一部の実験を2023年度にかけて行っており、次年度使用額が生じた。それらの実験の遂行に次年度使用額をあてる。また、2022年度までの研究により、SERTのS-パルミトイル化の役割の一端が明らかになりつつある。これまでの研究成果をふまえ、2023年度はSERTのS-パルミトイル化の役割と制御機構をさらに詳細に解析する予定であり、これに2023年度助成金を使用する。
|