研究課題/領域番号 |
22K06863
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
石澤 有紀 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 准教授 (40610192)
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研究分担者 |
合田 光寛 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 准教授 (40585965)
相澤 風花 徳島大学, 病院, 特任助教 (80848367)
八木 健太 徳島大学, 病院, 特任助教 (10869085)
新村 貴博 徳島大学, 病院, 特任助教 (50910014)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リアルワールドデータベース / 薬物有害事象 / がん化学療法 / 性差医学 / 大動脈疾患 |
研究実績の概要 |
がん診療において、発症率や治療経過に性差が存在することは広く知られている。しかし、臨床研究の被験者における男女の不均衡に加え、基礎研究における性差解析が充分に進んでいないことから、性差を考慮した治療法は未だ確立されていない。そこで医療ビッグデータ、すなわち「リアルワールドデータ」を活用することで、がん化学療法における性差の実情を網羅的に解析し、性別による治療反応性や有害事象のリスクの違いについて課題を抽出する。さらに疾患モデル動物や培養細胞を用いた基礎薬理学的検討により、その分子機序を明らかにする。本研究課題から、性差を考慮した、より安全性・有効性の高い薬物治療戦略提案のための基盤となる知見を創出することを目的とする。 本目的を達成するため、医薬品有害事象自発報告データベースとして、FDAに蓄積されているFAERS (FDA Adverse Event Reporting System) 、医薬品医療機器総合機構 (PMDA) に報告・蓄積されているJADER (Japanese Adverse Drug Event Report database) 、あるいは世界保健機構 (WHO) 国際医薬品モニタリング制度加盟国から集積されている個別症例安全性報告データベース、VigiBaseを用いる。有害事象別にその発現率と患者背景 (性差、年齢、併用薬) との相関について、報告オッズ比 (reporting odds ratio: ROR) を指標として解析する。その結果、血管新生阻害剤X、血管拡張薬Y、および特定の抗菌薬Zによって、大動脈瘤および解離の報告が多くなることが明らかとなった。 さらに、レセプト(診療報酬明細書)データベースであるJMDCを用いた多変量解析から、血管新生阻害剤による大動脈解離の発症は、薬物に非関連性の解離発症に比べ、女性における報告率の増加が認められた。また、血管拡張薬Yに関連して発症が疑われる大動脈解離に関しても、男性と同様女性でもリスクが高まることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにリアルワールドデータベースとして、有害事象自発報告データベースであるJADER、FAERS、VigiBase、さらにレセプトデータベースであるJMDCのデータ解析に着手している。それぞれ異なる特徴を有するデータベースを多方面から解析することが可能となっており、すでに各種抗がん剤やその他の薬剤に関する性差の情報を網羅的に探索している。動物モデルおよび培養細胞を用いた検討では、雌雄両性を比較する必要があり、雌由来の生物だけでなく、雄に関しても薬物の影響を評価する必要がある。これまでのところ、血管新生阻害剤Xに関して、雄のマウスを用いた大動脈解離易発症モデルマウスに対する影響を検討し、発症率の増加傾向を示すことが明らかとなった。さらに、培養細胞ではヒト臍帯静脈由来内皮細胞HUVECを用いて検討しているが、これは雌由来細胞であり、培養細胞とマウスのそれぞれに関していずれにおいても血管新生阻害剤Xが内皮細胞障害マーカーであるVCAM-1及びICAM-1の発現上昇を促す可能性があることを見出している。以上の通り、性差に着目した解析がデータベース及び基礎研究両方で進んでいるため、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
データベース解析では、さらに他の抗がん剤を含む薬剤による心血管系有害事象発生における男女差の解析を実施する。基礎研究では、まず現在雄マウスで評価を始めている血管新生阻害剤Xに関して、雌マウスを用いた場合の影響を検討する。また、近年性差の分子メカニズムに重要な役割を果たしていることが示唆されている免疫細胞集団の組成・比率に与える影響を、フローサイトメトリー、免疫染色、リアルタイムPCR等の手法により心血管病変局所および全身性に検討し、雌雄のマウスでの差を評価する。さらに、雌雄両方のマウスから肺動脈内皮細胞、大動脈平滑筋細胞、腹腔内マクロファージ、脾臓由来免疫応答細胞等を単離し、in vitroの系において抗がん薬刺激が各細胞で性差依存的な反応を示すか否かについて検討する。各細胞種における主要な機能 (ex. 内皮細胞における一酸化窒素合成酵素活性・細胞死、平滑筋細胞における細胞外基質分解酵素発現・細胞増殖、免疫応答細胞における各種サイトカイン産生・遊走能など)と、それを担うシグナル伝達経路について、遺伝子発現、蛋白発現、酵素活性を指標に解析する。
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