研究課題
3本の脂肪酸鎖を有するグリセロリン脂質である「トリアシル型リン脂質」は、ヒトを含む種々の動物組織から単離されている。代表的な分子であるN-アシル-PEは、ホスファチジルエタノールアミン(PE)のエタノールアミン部分のアミノ基に3本目の脂肪酸鎖が結合しており、脂質メディエーターであるN-アシルエタノールアミンの前駆体である。一方、PEがホスファチジルセリン(PS)に置き換わったN-アシル-PSは、脳などから単離されているが、生合成・分解経路はほとんど不明である。N-アシル-PSからの生成が想定されるN-アシルセリンは血管拡張・抗炎症・神経保護・骨形成などの生物活性を示す。本研究では、N-アシル-PSの代謝経路を特定し、関与する酵素の実体を解明することを目的とした。1年目の令和4年度は、N-アシル-PSの生合成経路の手掛かりを得るための研究を実施した。N-アシル-PE合成活性(N-アシル転移活性)を有する既知の酵素のいずれかがN-アシル-PS合成能を併せ持つ可能性を考え、N-アシル転移活性を有する細胞質型ホスホリパーゼA2-ε(cPLA2ε)とPLAATファミリータンパク質(PLAAT-2)のcDNAを調製し、それぞれを哺乳類細胞で過剰発現させた。これらの細胞を[14C]エタノールアミンまたは[14C]セリンの存在下で培養した後に脂質を抽出し、薄層クロマトグラフィーで分離して放射能の分布を測定した。その結果、いずれの細胞においても[14C]エタノールアミンの標識により[14C]N-アシル-PEの生成を認めたのに対し、[14C]セリンによる[14C]N-アシル-PSに相当するバンドの生成は認められなかった。また、cPLA2εとPLAAT-2を発現させた細胞のホモジネートを[14C]ホスファチジルコリン と非標識PSと反応させたが、 [14C]N-アシル-PSは検出されなかった。
3: やや遅れている
N-アシル-PE合成活性(N-アシル転移活性)を有する既知の酵素のいずれかがN-アシル-PS合成能を併せ持つ可能性を考えて実験を行なったが、いずれの酵素においてもN-アシル-PS合成活性を検出できなかったため。
当初の計画に従って研究を実施する予定である。cPLA2εやPLAAT-2を用いたN-アシル-PS合成活性の測定条件が至適でなかった可能性があるので、条件検討を進める。また、N-アシル-PSは脳に存在しているので、マウス脳を酵素源としてN-アシル-PS合成活性の測定条件を確立する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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