研究課題/領域番号 |
22K06890
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
橋本 あり 北海道大学, 医学研究院, 助教 (60390803)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ARF6 / AMAP1 / 免疫回避 / ケモカイン / 間葉形質 |
研究実績の概要 |
膵癌は、高密度の線維化を伴う免疫抑制的な腫瘍微小環境(TME)を形成していることが示されており、治療効果および患者の生存率低下の一因となっている。従って、免疫抑制を緩和し、膵癌の治療効果を高めるために、免疫抑制性TME形成の鍵となる分子機構を新しい視点から解明する必要がある。 本研究では、間葉形質を有する膵癌において高発現し、癌悪性度進展に関わるARF6-AMAP1経路が免疫回避にも関与することを見出したことから、当該経路が如何にして免疫回避を駆動しているのかを明らかにすることを目的として研究を進めている。これまでに、膵癌モデルマウスを用いた解析から、ARF6-AMAP1経路は腫瘍組織への免疫細胞の浸潤割合を変化させ、免疫抑制環境の形成に関与していることを見出した。さらに、免疫抑制性TME形成に関わる免疫細胞群の集積を説明しうるケモカイン産生変換に関与する知見を得た。即ち、膵癌細胞を用いたRNA-seq.解析から、ARF6-AMAP1経路の活性化が抗炎症性(腫瘍促進性)ケモカインの発現を誘導し、一方、炎症促進性(抗腫瘍性)ケモカインの発現抑制に関与していることを見出した。引き続き、細胞質画分と核画分を用いた質量分析解析により、ARF6-AMAP1経路が刺激依存的に当該ケモカイン遺伝子発現に関わる特定の転写因子の核内存在量の制御に関与する知見を得た。本研究期間において、ARF6-AMAP1経路活性による抗炎症性ケモカイン産生の制御機構を中心に解析を行い、特定の転写因子を介した分子メカニズムの検討を行った。その結果、ARF6-AMAP1経路は、特定の転写因子の核内移行を制御していること、その制御に関与する複数の因子を同定した。これらの解析から、ARF6-AMAP1経路は特定の転写因子の核内移行制御によるケモカイン発現変換を介して膵癌の免疫回避を高めていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していた1) ARF6-AMAP1経路による腫瘍促進性(抗炎症性)ケモカインの発現制御機構の解析、2) ARF6-AMAP1経路による抗腫瘍性(炎症促進性)ケモカインの発現制御機構の解析において、High-throughput screeningシステムによる網羅的解析を共同研究で進める予定であったが、コロナの影響を鑑み、独自に見出した因子との関連の研究を進めていた。しかしながら、所属する研究室にある超低音フリーザーや冷凍庫が次々と故障したことにより、その対応やサンプル整理に追われたため、本研究の推進に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り研究を進めていく予定である。ARF6-AMAP1経路による免疫回避作動の分子機序に関し、炎症促進性/抗炎症性ケモカイン発現制御機構に着目し、ケモカイン発現制御に関わる候補因子とARF6-AMAP1経路の構成因子との相互作用の有無、当該経路活性化との関連の詳細な分子機序の解析を進める。また、腫瘍組織における候補因子とARF6-AMAP1経路との関連についても解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画であるARF6-AMAP1経路による炎症促進性/抗炎症性ケモカイン発現制御機構に関わる制御因子に関し、独自に見出した候補因子との関連の解析において、進捗に少し遅れが生じたため、一部を次年度に繰り越した。詳細な制御機構の解析、腫瘍組織における解析、また、論文投稿のための英文校正費や投稿料、成果発表のための学会参加費に使用する予定である。
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