上皮が機能を果たすためには、組織の形態が正しく形成されることが極めて重要である。この上皮の形態形成には、個々の細胞が持つ「細胞極性 (apical-basal polarity)」の軸に対し、細胞分裂が垂直方向に起こる必要がある。しかしながらこの「細胞極性」と「分裂方向」を協調させる分子機構については不明な点が多い。私たちは最近、細胞極性を制御するPar-aPKC 複合体に結合する新規分子として7回膜貫通型タンパク質 ParGPR1 (Par-interacting G-protein coupled receptor 1) を見いだした。上皮細胞においてParGPR1タンパク質をRNA干渉法によりノックダウンすると、3次元培養下で異常な形態のシストが形成された。さらにParGPR1が、Par-aPKCと結合する一方で分裂方向の制御因子であるヘテロ3量体タンパク質Gαiとも結合したことから、ParGPR1がこの両者と協調し上皮細胞の形態を制御することが示唆された。本研究は、ParGPR1の上皮形態形成における作用機序を解析することにより「細胞極性」と「分裂方向」を協調的に働かせるための分子機構の解明を目指すものである。今年度は主に下記の成果を得た。(1)CRISPR-Cas9システムによりParGPR1を欠失したMDCK上皮細胞株を作製した。これらの細胞を3次元培養すると複数の管腔を持つ異常なシストを生じた。(2)ParGPR1は自身でオリゴマーを形成するが、このオリゴマー形成は、同一細胞内(cis)で起こる一方で、隣接する細胞間(trans)では見られないことを示した。さらに、このオリゴマー形成は細胞膜貫通領域を介することを見いだした。(3)ParGPR1は、上皮細胞ではlateral 膜に特異的に局在するが、そのためには自身の細胞内C末端領域が必要であることが分かった。
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