研究課題
Keap1-Nrf2システムは、酸化ストレスや毒物により活性化して、抗酸化酵素や解毒代謝酵素をコードする遺伝子の発現を亢進する生体防御機構である。これまでは遺伝子改変マウスを用いた解析が進んでいたが、ゲノム編集技術によって遺伝子改変ラットの作出が可能になった。そこで、過剰なNrf2活性化による生体影響を調べるために、Keap1欠失ラットを作出した。Keap1欠失(K0)ラットの肝臓では、門脈域周囲の肝内胆管が形成されず、黄疸を呈して生後1日以内に死亡した。Keap1::Nrf2ヘテロ欠失(K0N1)ラットは生後1週間以上で半数程度、また、Keap1::Nrf2二重欠失(K0N0)ラットは完全に致死性を回避することができた。そのため、K0ラットにおけるNrf2の過剰な活性化が胆管無形成の原因であると考えられた。そこで、野生型(K2)、Keap1ヘテロ欠失(K1)、K0、K0N1、およびK0N0ラットの5遺伝子型を用いて、0日齢の肝臓を標的臓器としてRNAシークエンス解析によって網羅的に遺伝子発現を調べた。肝内胆管形成不全により黄疸を呈するヒトの病態であるアラジール症候群では、Notch1/2やそのリガンドであるJag1の遺伝子変異による発現低下が原因とされている。K0ラットではこれらの遺伝子の発現低下は認められなかったが、アラジール症候群患者とアラジール症候群モデルJag1変異マウスの肝臓で共通して発現が変動する遺伝子群を調べてみると、K0ラットでもその約70%の遺伝子が同様に変動していることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
Keap1欠失ラットから摘出した肝臓を用いて、予定通りRNAシークエンスを実施した。
Keap1欠失ラットは生後1日以内に死亡するため、生体解析が限定された。Keap1::Nrf2ヘテロ欠失(K0N1)ラットは生後1週間以内の致死性を回避できれば半数程度生存した。K0N1ラットは成長遅延がみられることがわかったので、K0N1ラットを用いて、K0ラットで表現型が顕著であった肝臓以外の他臓器も含めて解析を進め、Nrf2の過剰な活性化がもたらす病態を解析する。Keap1::Nrf2二重欠失(K0N0)ラットは野生型ラットと同様に生育するのでK0N1ラットの対照として用いる。
年度途中に所属先を異動し、研究の立ち上げに時間を要したため
すべて 2023 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Hepatology
巻: 79 ページ: 829~843
10.1097/HEP.0000000000000568
https://park.itc.u-tokyo.ac.jp/foodchem/