研究課題
「血管とリンパ管」は、生命維持に必須の2大循環系である。本研究ではそのうち、「リンパ管弁およびリンパ静脈弁の働き」によって維持されるリンパ液の正常な循環が、浮腫の予防だけでなく中枢神経系からの老廃物排除にも貢献し得る点に着目している。本年度までに、リンパ管の過形成、浮腫およびリンパ管弁の異常を示すfolliculin(Flcn)ノックアウトマウスの解析を進めてきた中で、FLCNノックアウトマウス解析から見出された、“リンパ管発生のマスターレギュレーターprox1”の病的な過剰発現がシビアなリンパ管浮腫を引き起こす事に着目し、リンパ管弁特異的prox1過剰発現マウスを作出してリンパ管の弁構造の組織学的解析を行なった。さらに、中枢神経系におけるリンパ管機能を解析する目的で、リンパ管構造および機能の知見が乏しいことに加え、リンパ管機能喪失による神経変性疾患発症という仮説を検証すべく、髄膜リンパ管に着目した。本年度は髄膜全体におけるリンパ管の走行を組織学的に明らかにするホールマウント染色法を確立すると共に、prox1プロモーターを用いたリンパ管内皮特異的Cre発現マウスを作成してインディケーターマウス(CAG-LSL-GFP)との交配後、タモキシフェン投与によって髄膜リンパ管にCreの発現が誘導されるかを組織学的に解析した。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究で、血管およびリンパ管内皮特異的Flcnノックアウトマウスは静脈におけるprox1(リンパ管発生のマスターレギュレーター)の異所性発現と、リンパ管におけるprox1発現亢進および顕著な過形成をもたらすことを明らかにした。さらに、FLCNマウスの静脈とリンパ管は末梢で接合し、リンパ管内に血液が流入するという致死性の表現型が認められた。しかし、prox1の異常な発現亢進が静脈弁およびリンパ管弁に及ぼす影響については不明であった。本年度は、発生段階ではなく、出来上がった後のリンパ管弁におけるprox1機能を解析する目的で、リンパ管弁およびリンパ静脈弁のみでprox1を過剰発現するマウスの作出および解析を行なった。現在世界中で用いられているCreマウスにおいて、血管あるいはリンパ管内皮細胞特異的なものは存在するが、リンパ管弁、リンパ静脈弁特異的なCreラインは存在しない事から、まず、弁特異的な分子であるIntegrin-α9(Itga9)に着目し、そのプロモーター領域を利用したCreERT2マウスを作出した。さらに、インディケーターマウス(CAG-LSL-GFP)と交配してタモキシフェンを投与した後に、弁特異的にCreの発現が誘導されているか、腸間膜および髄膜を用いて組織学的に評価した。その結果、腸間膜リンパ管において、リンパ管弁特異的にCreの発現が認められた。このマウスを用い、リンパ管弁特異的にprox1を過剰発現させたところ、FLCNノックアウトマウスで認められたようなリンパ管拡張の表現型が認められた。続いて本年度は、新たに頭蓋骨下に存在する髄膜全体におけるリンパ管構造の可視化に成功し、現在、髄膜リンパ管の弁構造の詳細な組織学的解析と機能的解析に取り組んでいるところである。
本年度作出に成功し、リンパ管弁特異的にcre発現が認められたItga9-creERT2マウスを用いて、Flcn-floxマウスを交配して弁特異的Flcnノックアウトマウスを作出し、脈管の詳細な組織学的解析を行う。さらに髄膜リンパ管についての解析を並行して行う。上記の弁特異的Itga9-creERT2および、リンパ管内皮特異的にcreを発現するprox1-creERT2マウスを用いてcreの発現を解析した結果、そのどちらにおいても髄膜リンパ管においてcreの発現が認められなかった。髄膜リンパ管のリンパ管弁機能を喪失した際の個体への影響、特に神経変性疾患発症への影響を調べる事が目的なため、髄膜リンパ管でcre発現が認められるマウスの作出は必須であり最重要課題である。そのため、次年度は髄膜に存在するリンパ管、もしくはリンパ管弁にcre発現が認められるマウスの作出を試みる。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
Am J Pathol
巻: 192(2) ページ: 379-388
10.1016/j.ajpath.2021.11.003.
J Clin Invest
巻: 132(6) ページ: e153626
10.1172/JCI153626.
J Exp Med
巻: 4 ページ: 219(4)
10.1084/jem.20211789.