研究課題/領域番号 |
22K06921
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笠原 優子 東京大学, 医科学研究所, 特任助教 (90391911)
|
研究分担者 |
小野 悠介 熊本大学, 発生医学研究所, 教授 (60601119)
倉岡 睦季 日本獣医生命科学大学, 応用生命科学部, 助教 (70569144)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 間葉系幹細胞 / 筋ジストロフィー / 炎症制御 |
研究実績の概要 |
最も重篤な筋疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、ジストロフィン欠損に加え慢性炎症により病態進行が促されるため、ジストロフィン発現回復による根本治療が求められる一方で、新たな抗炎症療法の開発が望まれる。従来のステロイド療法は、効果の個人差や長期服用による副作用が懸念されるため、慢性炎症を標的にした新たな治療法として、間葉系幹細胞(MSC)を用いた細胞治療に着目した。 MSCは炎症への集積性と制御作用を示すことから、細胞性医薬品として複数の炎症性疾患への適応拡大が進められており、申請者らはMSCを全身反復投与したDMDモデル動物において、病態緩和、炎症の鎮静化、運動機能の維持効果を報告している。しかし、十分な治療効果を得るためには高用量のMSCが必要であり、また、骨格筋組織に取り込まれたMSCによる炎症制御とその生理的意義は十分に解明されていない。さらに、社会実装を目指すにおいてはDMDの重症度や治療効果の指標となる有用なマーカー開発が必須であると考えられる。 そこで本課題では、羊膜由来MSC (AMSC)を用いたDMDに対する新規抗炎症療法の基盤技術の検証を目的とする。先ずは、遺伝子導入により機能強化したAMSCを作出、DMD骨格筋細胞への作用機序の検討を行い、さらに、重篤な筋萎縮状態でも測定可能な新たなバイオマーカーを獲得し、治療の指標となる候補物質を検討する計画である。 今年度は、AMSCによる骨格筋特異的な組織保護効果や炎症制御能を増強するため、遺伝子導入により分泌因子を増強したAMSCの検討を行った。また、疾患特異的な筋管形成におけるin vitro評価系を構築するため、DMDマウスの骨格筋細胞を採取・培養条件を確立したのち、AMSCとの共培養において液性因子の発現変動による筋細胞への相互作用を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AMSCの炎症制御・組織保護作用を活用したDMDに対する抗炎症療法を目指すにあたり、遺伝子導入により分泌因子の発現が増強したAMSCを作成し、パラクライン効果の変動を明らかにした。また、動物実験の前試験として、野生型およびDMDマウスより筋線維の単離、筋芽細胞の初代培養を行った上で、筋ジストロフィー特異的な炎症状態におけるAMSCの反応性を評価した。AMSCはDMD由来骨格筋細胞との共培養条件下において、特定の炎症制御因子や組織修復関連因子が刺激されることから、AMSCは疾患の炎症状態に応じた作用機序を示すことが示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度までに構築した疾患特異的な筋線維・筋芽細胞を用いたin vitro評価系を拡充し、多核の筋管形成を誘導した分化過程において、液性因子による相互作用を評価する系を構築する。遺伝子導入AMSCによる筋分化・筋管形成の促進効果、細胞特性を精査する。また、AMSCの炎症性M1/炎症制御性M2マクロファージ活性化に与える影響について評価し、疾患特異的な効果を明確にする。以上の課題推進により、DMD特異的なスクリーニングとして治療効果や作用機序の予測が可能となり、至適な移植ソースの選択が容易となる。これにより、DMDや筋傷害に最適な機能強化AMSCを選出し、DMDモデルマウスを用いた治療効果を検証し、ex vivo 療法の有効性を示す。これと並行して、従来のDMDマーカーの課題となっていた重症度や治療効果を指標とした、筋萎縮状態で測定可能な新規バイオマーカーを獲得する。以上により、新規評価系の拡充と機能強化AMSCによる高効率の治療基盤の確立を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
解析のために購入予定であった物品の調達が大幅に遅れたため(海外輸入品)、次年度に実施することとした。
|