研究課題
活動性NASH群を同定可能なバイオマーカーとして肝分泌因子Xが有用であるという前年度の成果を踏まえて、患者数規模がより大きい公開データを用いたバリデーション解析を行った。具体的には、肝臓の病理学的ステージが明らかな200名以上の肝生検サンプルのトランスクリプトームデータを有する横断的コホートを対象として、遺伝子発現情報を用いた擬似時間軸へ各サンプルをマッピングすることで、NASH進行の初期段階で大きく変動する遺伝子群の抽出を試みた。その結果、得られた擬似時間に沿って、既知の肝線維化マーカー遺伝子の発現上昇が認められ、データマッピングの臨床相関が確認された。さらに、NASH進行の擬似時間軸において、初期フェーズ特異的に非線形に減少する分泌因子として肝分泌因子Xが見出された。興味深いことに、Xは加齢に伴って減少することが知られており、NASHにおけるXの低下は肝臓における肝細胞の加齢変化と密接な関連があることが示唆された。肝分泌因子Xが肝星細胞等の非実質細胞に作用してNASH病態進行を抑制するという前年度のオルガノイドを用いた検討結果を踏まえて、in vivoでも同様の作用が発現するかどうかを検証した。具体的には、NASHモデルとしてSTAMマウスを用いて、AAV8による肝臓特異的な因子Xの発現がNASH病態に与える影響を解析した。まず、STAMマウスでは、ヒトと同様に、血中因子Xレベルが病態進行に伴って減少することを確認した。さらに、肝炎病態が顕在化するステージからAAV8による因子Xの発現補填を行ったところ、脂肪肝・肝炎・肝線維化、さらには生存率の有意な改善が認められた。因子Xが活性化するシグナル分子のリン酸化を指標に、肝臓における因子Xの作用細胞を検討した結果、肝類洞内皮細胞が主要なターゲットであることが判明した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究で着目している肝分泌因子Xについて、複数コホートにおいてNASHのバイオマーカーとしての有用性を示すことができたことに加えて、病態進行の初期に特異的に減少するという時間的な解像度の高い情報を得ることができた。また、NASHモデルマウスを用いて、肝分泌因子Xが肝臓の脂肪蓄積・炎症・線維化を抑制し、生存率を改善するという治療効果を明らかにすることができた。ヒトiPS細胞由来肝オルガノイドや非実質細胞の分化誘導系での分子レベルでの検証も前倒しで進めることができており、総合して当初計画以上に進展していると考えている。
肝分泌因子Xが肝臓の肝類洞内皮細胞に作用する分子機構や、NASH病態を増悪させる機序について、主に炎症応答に関連する経路に着目しながら解析を進める。また、本研究で活用可能なNASH患者肝生検サンプルを用いて、シングルセルトランスクリプトーム等の細胞種特異的な解析を組み込むことを通じて、肝類洞内皮細胞を起点とした因子Xが有する抗NASH作用のメカニズムの詳細について解析を進める。
公共データベースの再解析によって得られた結果が想定以上に有用な内容となったため、当初計画で予定していた患者検体解析にかかる費用を抑えることが可能となり、翌年度に有効活用することとした。この生じた差額については、翌年度、患者から得られた検体の組織学的解析を重点的に実施することを主な使途として計画している。
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